マンスリーレビュー

2018年5月号

MRIマンスリーレビュー2018年5月号

巻頭言|人口減少を構造改革の好機に

常務研究理事 村上 清明
日本の人口が2008年の1億2,808万人をピークとして減少に転じてから10年が経過した。2017年1年間で日本人の人口は35万人減少した。新宿区(34.3万人)が消えた勘定だ。人口の減少は、ほぼ今世紀中続き、30%以上の減少は避けられない見込みだ。これが、目先の景気が良いとしても、日本人が将来に大きな不安を抱く最大の要因となっている。

しかし、人口減少が、必ずしも経済衰退を招くわけではない。変革を促し、繁栄に導くこともある。14世紀の欧州は、中世的な農業経済による成長が行き詰まり停滞に陥っていた。そこに、百年戦争、黒死病の大流行が重なり、人口の4割を失った。穀物価格の下落と労働賃金の高騰により主要産業の農業が衰退し、農村から都市へ人口が大移動した。その結果、商業が発展し、資本を蓄積した商人は、鉱山開発や手工業の技術革新へ投資を行い、都市経済の繁栄をもたらした。それは、ルネサンスから産業革命へと続いたのだ。

同じことは、工業型経済が成熟し経済が停滞している日本にも起こり得る。労働力人口の減少により人材の希少性が高まり、賃金が上昇すると、安価な賃金でしか成立しないビジネスは市場から退場せざるを得なくなる。その時、政府の行うべきことは、競争力を失った企業を救済するのではなく、リスクをとって新市場を開拓する企業を支援することと、そうした企業に人材が円滑に移動できるようにすることだ。労働力人口が減少するから経済成長しない、賃金が上昇すると競争力が低下するというのは工業型ビジネスの話である。知識型ビジネスでは、高い賃金を払ってでも、優秀な人材を集める方が、競争力が高まる。実際、そうした動きが世界中で起こりつつある。知識産業への構造改革が進展すれば、政府が賃上げの要請などしなくても賃金は上がる。

人口の安定には出生率の回復が不可欠だ。当面の少子化対策も必要ではあるが、最も重要なのは、若い世代が未来に希望がもてることではないだろうか。人口減少の先に希望ある未来が拓けると分かれば、出生率も回復するはずだ。
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