マンスリーレビュー

2017年6月号

MRIマンスリーレビュー2017年6月号

巻頭言|未来を見通すために必要なこと

研究理事 亀井 信一
『レッド・オクトーバーを追え』や『いま、そこにある危機』などの軍事、諜報小説で知られるトム・クランシーが没して3年が過ぎた。彼の著作を振り返ると、1996年発表の『合衆国崩壊』や2000年の『大戦勃発』、2005年の『国際テロ』など、あたかも今日の世の中を見透かしていたかのような内容が多いことに気づく。

あまり知られていないが、彼は『謀略のパルス』の中で、卓越した研究者として2人の日本人科学者を紹介している。1人は、中谷宇吉郎博士。寺田寅彦博士の門下生で、北海道帝国大学の教授を務められた物理学者である。世界で初めて人工雪の作製に成功し、「雪は天から送られた手紙である」の言葉でも知られている。

もう1人は、飛澤昌太郎博士。防衛大学校の教授だった方で金属学が専門である。結晶成長のパターン形成に関する研究や機能性セラミックスの分野で先導的な研究成果を収めている。トム・クランシーは飛澤先生を、飛び切りワット数の高い逸材と評している。

縁があり、飛澤先生が亡くなる直前にその研究レポートを個人的に引き継いだ。この連休を利用し、久しぶりに飛澤先生の墓前に参った。快晴のもと、先生の穏やかな顔が浮かんできた。

先生からいただいた資料をひもとくと、トム・クランシーの小説に対する感想が出てきた。そこには先生自身について綿密な調査を行い、研究内容に関しても細部に至るまで正確に引用していることへの敬服の念が記されていた。

シンクタンクの研究員には常に、時代の先を見通す洞察力が求められる。それは綿密な調査に裏打ちされた詳細なデータの積み上げによって育まれる。飛澤先生の思い出に触れて、この真理を改めてかみしめた。
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