マンスリーレビュー

2020年5月号

MRIマンスリーレビュー2020年5月号

巻頭言|技術革新がもたらす影響

常務研究理事 大石 善啓
当社は創業50周年を契機として、次の50年を視野に「100億人・100歳時代に豊かで持続可能な社会」を実現するための記念研究に取り組んでいる。主要論点の一つは、「加速する技術革新が人や社会に与える影響」である(本号の特集参照)。本研究では、すでに社会に大きな影響を与えつつあるDX(デジタルトランスフォーメーション)に加えて、先端的なライフ・バイオ技術による社会革新を意味するBX(バイオテックトランスフォーメーション)に注目している。

DXとBXは一見全く違う革新技術として捉えられるが、技術がより人間の本質に迫り、影響を及ぼす点で共通している。AIや脳科学は、思考、判断といった人間の脳そのものの機能を代替、補完する役割を果たす。また、ゲノム医療や遺伝子操作は、人の生命や種の継承に多大な影響を及ぼす。

DX、BXがもたらす影響や変化のスピードにも注目する必要がある。DXの場合、社会にもたらす影響や変化が速く、適応スピードの差が、国際的、社会的な格差、富や情報の一極集中を生み出している。一方、BXがもたらす影響や変化のスピードはどのように考えるべきであろうか。 

地球上に原始生命が誕生したのは38億年前とされている。生物は、気の遠くなるような長い時間をかけて、現在の姿に進化した。人の場合、胎内で受精卵から魚類や両生類のような姿を経て、人の姿になるプロセスは約40日といわれており、凄まじいスピードで進化の歴史を辿った後、ゆっくりとした成長に移行する。生物の時計は、非常に複雑だ。BXは、社会に恩恵をもたらす一方、予期せぬ影響を想定できない時間軸で与える可能性があり、自然科学と社会科学を対話させて賢く使う必要がある。

今、新型コロナウイルスが猛威をふるっている。ウイルスのDNA解析から感染ルートを特定し、リアルタイムで世界の感染状況を可視化、予測、制御する取り組みが始まった。DXとBXを両輪に世界の叡智を結集して未曽有の危機を克服するとともに100憶人が豊かで持続可能な未来社会を実現したい。
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