マンスリーレビュー

2018年6月号

MRIマンスリーレビュー2018年6月号

巻頭言|時代の好機を逃さないために

研究理事 亀井 信一
この春、台北で開催された「日台AI技術と未来社会」と題する国際シンポジウムへの招待を受けた。日本からは、未来社会ビジョンを研究している関係者が参加し、総合科学技術・イノベーション会議の議員や主要シンクタンクの研究理事がそろうことになった。一方、台湾側も関係する研究機関の代表者が参加し、晩さん会には科技部部長(科学技術大臣)も臨席した。

これからのデジタルイノベーションの時代には、データを獲得したものが勝者になるということは衆目の一致するところである。もっぱら話題になったのは、その取得や流通の方法である。プライバシーや個人の権利が保護された社会では、人々の高い意識のもと、一人ひとりの健康データや商取引データを根こそぎ集めることは実質的に不可能である。日銀の調査によると、日本でモバイル決済が進まない最大の理由はセキュリティー・紛失の面などで安全性に不安があることであり、個人情報の流出に対する警戒感が強い。2017年施行の改正個人情報保護法により匿名加工情報の流通緩和措置がなされたが、未だ利活用が進んでいるとは言いがたい。

一方、海外に目を転じると、欧州ではこの5月にGDPR(一般データ保護規則)が施行された。その目的は、個人データの保護を基本的人権として認める点にあり、個人データの域外移転は原則として禁止されている。域外へ移転するには、十分なデータ保護、明確な本人同意や規則整備などが必要とされており、規制が強化される流れにある。

個人データの取得や流通に制約を受ける状況下で、時代の好機たるデジタルイノベーションに踏み出すためにはどうしたらよいのであろうか。まずはすでにもつ健康データや人材データなどを活用し、少しずつ成功事例を積み重ねるのが、一見遠回りに見えて堅実な方法であろう。電子化の有無にかかわらず世の中に眠っている個人データは意外に多い。これらの利活用が第一歩である。
もっと見る
閉じる

バックナンバー