マンスリーレビュー

2018年6月号トピックス1地域コミュニティ・モビリティ

国内旅行熱を「見える化」する

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2018.6.1

次世代インフラ事業本部奥村 泰宏

地域コミュニティ・モビリティ

POINT

  • シニアの観光需要は高齢者人口の伸びを上回るペースで増加している。
  • 首都圏在住の高齢者の移動は広域化している。
  • 実情が分かる旅客純流動調査は観光PRに有効。
2015年の全国幹線旅客純流動調査の結果が、間もなく公表される予定である。1990年から5年ごとに実施されており、飛行機、新幹線・特急、高速バス、船、自動車で県境を越える旅行者数が把握できる。出発地と目的地に加え、旅行の目的(仕事、観光、私用)や旅客の属性(年齢・性別など)のほか、交通機関の乗り継ぎ実態も分かる。

調査によると、2010年には60歳以上で3億4,800万人もの人々が、遠方への旅行を楽しんだ。近年クローズアップされている訪日外国人客(インバウンド)の数は、2016年時点で2,400万人※1と増えてきたが、高齢者の国内旅行市場の巨大さを、あらためて実感せざるを得ない。

この市場拡大のペースは、高齢者人口の伸びを大きく上回っている。調査結果によると、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県)から観光に出掛けた60歳以上の人の数は1990年から2010年にかけて7.9倍に増えた。この間、首都圏に住む同年代人口の伸びは2.2倍※2にすぎない。

首都圏在住の60歳以上の人々はどの程度、観光旅行に出掛けるようになったのか。1990年と2010年で、行き先別の人数を比較してみた(図)。静岡、長野、山梨、栃木などへの旅行が増えているのが目立つ。経済面・時間面で比較的余裕がある団塊の世代が60歳代となったのに加え、長野新幹線、上信越自動車道の開通など交通機関の整備が追い風となったようだ。2015年には北陸新幹線の金沢駅開業や格安航空会社による成田発着の便数増といった要因があるため、移動はさらに広域化したと予想される。

調査では、特定の県を、どの地域からどのような属性を持つ観光客が、どの程度訪れているかも把握できる。自治体や観光業界、交通会社が調査結果を精査すれば、優先的に観光PRの対象とすべき地域や年齢層も読み解けるため、マーケティングを柔軟に展開する一助にもなるだろう。調査の結果は国土交通省のホームページで公表されており、誰でも利用可能である。

※1:政府観光局の統計から引用。
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/marketingdata_outbound.pdf

※2:国勢調査より。首都圏1都3県の2010年10月1日現在の60歳以上人口は991万人と、1990年の同時期の2.23倍。なお、全年齢人口は1.12倍の3,562万人。

[図]60歳以上の首都圏居住者の旅行先の変化(観光・年間・全機関)