マンスリーレビュー

2018年6月号トピックス5防災・リスクマネジメント

防衛装備品の安定的な運用に向けて

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2018.6.1

科学・安全事業本部吉原 教明

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 米国からの有償軍事援助が増加するなど、防衛装備品の取得方式も変化。
  • 海外依存度の上昇で部品は枯渇。修理のリードタイム長期化も。
  • 国内企業にはMROの強化に向けた事業構造の転換を期待。
防衛のみならず災害援助の場面でも重要な役割を果たす「防衛装備品」。長期にわたり安全に運用を継続するためには、整備・修理(MRO)※1を拡充させ、経年劣化を防ぐ必要がある。近年、防衛装備品の調達(購入)パターンが複雑さを増したことで、MROのあり方にも変化が生じている。

防衛装備品の取得アプローチ※2は、「国内開発」、「国際共同開発」、「ライセンス国産」および「輸入(米国からの有償軍事援助など)」の四つに大別される(表)。防衛装備品の特性に応じて適切な方式を選択する必要がある。自国の運用方法に沿った調達ができる「国内開発」は国内産業基盤の育成に貢献する一方、開発上の技術的課題や開発費用の増加リスクに一国で対応する必要が生じる。そのため近年、「国際共同開発」をはじめとした、海外と連携した調達に注目が集まっている。

国際共同開発は、他国と共同で資金や技術を分担して開発を行う方式であり、欧州を中心に増えている。開発上の各種リスクを参加各国で分担できる一方、国家間の調整や事業管理に多大な労力を必要とする。他国企業から国内企業が技術提供を受けて生産を行う「ライセンス国産」は、開発上のリスクが少なくなるが、技術利用料などにより調達単価が輸入に比べて高くなるデメリットもある。国際共同開発が不可能な場合の代案として用いられることがある。「輸入」に関しては米国からの有償軍事援助の増加傾向が顕著であり、10年前と比較して5倍以上の規模(2018年度予算は4,102億円)まで増加している。

現在、平時とはいえ、海や空の安全を守るためのスクランブル発進などの頻度が増し、運用を支えるMROの重要性はさらに高まっている。半面、海外製装備品の増加に伴いMROの海外依存度は上昇し、部品の枯渇化や修理のリードタイム長期化の傾向が見られる。このような中において国内企業によるサポートへの期待は大きい。賛否両論あるだろうが、国内企業はこれまでの開発・生産分野を中心とした事業構造から、MRO能力が強化された事業構造への転換が求められるかもしれない。

※1:メンテナンス、リペア、オーバーホール。

※2:防衛省では毎年、防衛予算の枠内でさまざまな防衛装備品を取得しており、2018年4月の日米首脳会談においても米国防衛装備品の購入に関する議論が話題となった。

[表]防衛装備品の取得における四つのアプローチ