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2018年6月号トピックス2経済・社会・技術

費用対効果の可視化がもたらす新規投資

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2018.6.1

コンサルティング部門 社会ICTイノベーション本部大﨑 琢生

経済・社会・技術

POINT

  • IT予算が増える中で、新規投資は運用保守の後回しにされやすい。
  • 運用保守の費用対効果を計測することは難しくなる傾向にある。
  • 費用対効果を戦略的に可視化して、コスト圧縮と新規投資の両立を。
ビッグデータを人工知能技術で解析するサービスが普及し始め、データを活用した事業経営の高度化が進んでいる。企業にとってITの重要性はますます高まっている。IT予算を拡充する企業の割合※1は2017年度で34%だったが、2018年度には40%超に達した。しかし、内訳を見ると、予算の大半は既存システムを対象とする開発と運用保守に充てられている。ITの進化と事業環境変化に対応するための新規投資は、やや後回しにされているのが実情である。

情報システムではITコストの多くが、開発後の運用保守期間(5年ないしそれ以上)に発生する。このため、IT予算に占める運用保守コストの割合が膨らみ、新規投資の余地は小さくなりがちである。企業が持続的な事業成長を図るには、運用保守コストを抑制して必要な新規投資に回すという循環の形成が必要である。今後は、運用保守コストをどこまで下げられるかを見極めることが肝要である。

そのための費用対効果の計測は年々、簡単ではなくなっている。代表的な運用保守業務である「システム仕様の追加」と「CPU利用率やディスク容量の最適化」についてはかつて、自前で運用保守を行うことが多かったため、費用対効果の把握や管理がそれほど難しくはなかった。しかし、アウトソーシングサービスの利用拡大に伴い運用保守業務の「ブラックボックス化」が進展していることで、状況は変わってきた。

クラウドコンピューティング※2の普及も費用対効果の計測を複雑にしている。クラウドでは利用に応じて提供されるシステム処理能力が柔軟に拡張される分、この管理に関わる人件費をはじめコスト削減効果が大きいとされる。従量課金契約に基づき、利用量や利用形態に応じて細かく費用が変動する。このため、費用対効果を継続的に計測し適正に評価するには、綿密な戦略的対応が求められる。

短期的にコスト削減を図れたとしても、管理費が年々高騰しては元も子もない。経営者やマネジメント層は、IT投資をより効果的に実施するため、運用保守に対する費用対効果の可視化にもっと留意する必要がある。

※1:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査2018」(IT予算の速報値)」より。

※2:事業者が提供するコンピューティング環境(データセンターのリソース)を別の場所から利用するサービスの総称。主として、不特定多数の利用者のアクセスを許す「パブリック(共有)型」と、特定の利用者のアクセスに限定する「プライベート(利用者特定)型」に分類される。

[図]効果的なシステム投資モデル