マンスリーレビュー

2019年9月号

MRIマンスリーレビュー2019年9月号

クオリティ・ジョブは計画的に創るもの

常務研究理事 村上 清明
AI(人工知能)は、21世紀の持続可能で豊かな地球社会を実現するためのキーテクノロジーであるが、いくつかの懸念材料もある。その一つが雇用問題である。近年の雇用状況を見ると、中産階級の中核であるホワイトカラーがITで代替されている。新たに生まれる仕事もあるが、その多くは低収入の仕事であり、高収入が得られる仕事(クオリティ・ジョブ)は少数だ。これは、大量の中産階級を生んだ産業革命の時との大きな違いだ。

今後も新たなビジネスと仕事は多数生まれてくるだろうが、技能や資格の習得だけでは高収入に結びつかない。例えば、国内には、すでにドローン操縦士の資格取得のための学校が多数設立されているが、操縦技能だけでは、持続的に高収入を得られる仕事にはならないだろう。

高収入が得られる仕事となるには、より高い経済価値を生み出せるようにすることが必要だ。そのためには、包括的かつ、より高い専門性が求められる。宇宙航空分野で全米トップのERAU(Embry-Riddle AeronauticalUniversity、1925年創立)には、ドローン関連分野のトップ人材を養成する学部・修士課程がある。そこでは、科学、技術、経営を含む包括的なプログラムに加え、研究では、NASA(米国航空宇宙局)などと共同で最先端の研究が行われている。多数の企業が参加する共同研究、職業訓練、競技(コンテスト)、寄付講座など、実務教育も充実している。こうした教育プログラムは、将来の人材需要や得られる収入を綿密に調査した上で組まれており、学生は、想定される卒業後の仕事と収入を見て入学を判断できるようになっている。

産業のスクラップ・アンド・ビルドが不可避な時代を迎え、再教育の必要性が叫ばれているが、その出口(高収入が得られる仕事)が見えなければ、学習意欲も湧かない。個人の努力でその出口を創れるものでもない。学産官が一体となってクオリティ・ジョブを創ることが重要だ。
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