マンスリーレビュー

2018年9月号

MRIマンスリーレビュー2018年9月号

巻頭言|人口減少時代の賢い空き家活用

常務執行役員 研究開発部門長 鎌形 太郎
2008年の1億2,808万人をピークに日本の人口は減少を続けている。これに伴い全国で820万戸(2013年)もの空き家が発生し、防災・防犯、衛生、景観などの面で環境悪化が懸念されている。住宅は過剰にもかかわらず年間100万戸も新設され社会的に大きな無駄が生じている。

一方、高齢者の急増により、特別養護老人ホームの入居待ちは約30万人。女性の社会進出に伴い保育園の整備は追い付かず待機児童5万5,000人(昨年10月)といまだ増加している。訪日外国人旅行者も2030年には6,000万人を目指す勢いで、宿泊施設不足は深刻である。

住宅の新規建設を抑制するため、少なくとも新たにインフラ整備が必要な市街地の拡大を自治体はストップさせるべきである。既にインフラが整備された土地や住宅を流動化させ多様な用途で活用したい。

空き家の適正な管理と流動化を促すため空家対策特措法の施行や、税制改正も行われ、ハウスメーカーなどは空き家管理サービスやリフォームなどのサービスを始めた。空き家の認定や指導に加え、その活用アイデアや保育園として整備する空き家を募集する自治体も出てきた。

ただし団塊世代が75歳を迎える2025年以降、空き家は一気に増える。特に大量の空き家によりスポンジ化する都市部では対象エリアを面的に捉え、空き家の当事者と地域住民と自治体が議論し、WIN-WINとなる解決策を見つけていく必要がある。空き家は当事者にとっては保有していても出費が嵩むだけで資産価値は減少していく。地域住民にとっても環境悪化につながる。不足する保育や高齢者施設、民泊としての活用のほか、商業ベースにのらないコミュニティスペースや家庭菜園、ポケットパークなど多様な用途での活用に知恵を出し合い地域の魅力向上や環境維持を進めたい。人口減少時代であるからこそ、既存のストックを活用し賢く豊かな社会を実現したいものである。
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