マンスリーレビュー

2018年1月号

MRIマンスリーレビュー2018年1月号

巻頭言|一人一就業規則

理事長 小宮山 宏
課題をピンチとせず、チャンスと考えようというのが課題先進国論の本質である。働き方改革もそうした視点から考えたい。

日本企業で急速に定年制が導入され広まったのは1940年代後半であり、当時55歳定年が一般的であった。記録のある1947年の平均寿命は、男性50歳、女性54歳で定年より短かった。この頃は戦争の影響を受けており、1950年には男性58歳、女性62歳。いずれにしても定年制は、寿命をほぼ全うするまで働くことを前提としたモデルだったのである。

現在の平均寿命は男性81歳、女性87歳であるから、定年年齢引き上げに関する議論はあまりにスピード感に欠ける。

生産年齢人口とされているのは15歳から64歳である。しかし、15歳は中学三年生だし、高校を卒業してすぐに働く人すら20%に満たない。また、私は73歳になるが、クラスメートのほとんどは元気である。つまり、15歳も64歳も寿命が短く肉体労働中心の頃の話で、現実離れしているのだ。実態に合わない制度を前提とした議論に合理的な答えがあろうはずもない。

20歳から74歳を生産年齢人口とすべきであろう。人口動態予測によれば、2050年日本の15歳から64歳の人口比率は52%と先進主要国の中で低いのだが、20歳から74歳では62%となり他にひけをとらない。シニアは知価社会における有力な人的資源であるし、若者と同じように働く必要はまったくないが、生涯現役も自己実現の形の一つである。

定年制や働き方の議論に対する答えのヒントは企業の先進的な試みに散見される。シニアと現役のコラボによって画期的な新製品を生み出し続ける優良企業がある。働き手の確保に腐心するIT企業のいくつかは、個人の多様な働き方を許容し成功している。

物的充足を得た個人は自己実現を求める。それを可能にする制度が必要なのだ。一人一就業規則の実現が、目指すべきゴールなのではないだろうか。
もっと見る
閉じる

バックナンバー