マンスリーレビュー

2018年1月号トピックス5サステナビリティ

都市の木材利用促進で森林資源の好循環を

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2018.1.1

政策・経済研究センター清水 紹寛

サステナビリティ

POINT

  • 技術開発と法整備により、木材を使った中高層建築物が出現。
  • 林業再生や森林のCO2固定能力維持のため木材を適切に使う必要がある。
  • 建設需要の多い大都市で木材利用を促進して森林資源の好循環創出を。
木にはどうしても、火事や地震に弱いイメージがつきまとう。江戸の町はたびたび大火で消失したし、糸魚川市大規模火災の記憶も新しい。 だが近年、住宅以外の中高層建造物にも木材を使う動きが広がっている。代表的な施設として2013年には大阪市のオフィスビル「大阪木材仲買会館」や横浜市の大型商業施設「サウスウッド」が完成した。

木造・木質化※1が進んだ背景には技術の進歩と法整備がある。木材の耐火性能や強度が向上し、建材の採用基準が性能で規定されるようになった。木も、一定の条件さえクリアすれば、鉄やコンクリートと同様に扱える工業製品となったのだ。高層の木造建築で先行する欧州では、2014年に14階建ての木造ビルが誕生し、高さ300m・80階建ての「オークウッド・タワー」の建設計画もある。

木を活かした建造物が増えれば景観が豊かになり、居心地も良くなる。住宅以外の建築物でも使えるようになったことで、木材市場が拡大する可能性が出てきた。

温暖化防止にも寄与しそうだ。日本の森林は戦後から植林が続けられ、毎年8,000万~1億m3ずつ増えている。このままでは、老木が増え続け、CO2固定能力が低下する。建材として使用すれば、建築物が残る限りCO2は木材の中に留まる。大型建造物が取り壊されても、その木材を住宅で、さらに家具や木質ボードとして再利用し、最後には燃やしてバイオマスエネルギーとして活用すれば、都市の「森林」にCO2が長期間にわたり貯蔵される。伐採後に幼木を植林すれば森林のCO2固定能力も高まる。

建築需要の多い大都市をはじめ各地で国産の木材が使われれば、地方も経済的に潤う。大消費地である「川下」の需要は、森林という「川上」からの資源の好循環を生み出せる(図)。象徴的な動きとして、東京都港区の「みなとモデル」がある。区内で建築・改修される延床面積5,000m2以上の建築物に一定量の国産材使用を義務付け、CO2固定量を認証する制度だ。木材は全国77自治体から供給される規定になっているが、コストの問題があり、調達は近隣からに限られている。全国規模で森林資源の好循環を実現するため、大阪など他の大都市でも同様の制度が導入されるよう期待したい。

※1:木材を建築物の構造材に用いることを木造化、内装材や外装材に用いることを木質化という。

[図]年の需要がつくる森林資源の流れ