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2018年1月号トピックス4スマートシティ・モビリティ

ブロックチェーンが拓く仮想地域通貨の新たな可能性

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2018.1.1

コンサルティング部門 社会ICTイノベーション本部奥村 拓史

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • ブロックチェーン技術と法改正により仮想地域通貨の実証実験が広がる。
  • 機能を付加したコインの設計で、きめ細かいマーケティングが可能に。
  • 発展途上で課題もあるが、地域活性化の切り札の一つとなる。
しまとく通貨、さるぼぼコイン、近鉄ハルカスコイン。各地で地域密着型の電子決済サービス※1を使った実証実験が行われている。地域通貨を使った地域経済活性化の試みは2000年前後にもブームになったが定着しなかった。だが、当時と大きく異なる点がある。一つはブロックチェーン技術※2などによる仮想通貨の決済基盤が実用化段階にあること。もう一つは改正資金決済法が施行され、法制度面が整ってきたことだ。

ブロックチェーン技術は、改ざんや不正利用に強く、専用カード・端末類が不要のため、地域通貨の発行・運用・管理にかかるコストを一気に低減できる。さらに、電子マネーにはない貨幣機能の「転々流通性」※3も実現可能だ。地域内で購買を促すためにプレミアムを付与したり、死蔵させないよう、時間経過とともに減価や消滅を可能にする。例えば、短い滞在をぜいたくに楽しみたい旅行者向けに、高プレミアムだが旅行期間が過ぎると消滅するような観光コインの発行も可能になる。

さまざまな機能を付加したコインを低コストで発行できるメリットは大きい。自治体や地銀、鉄道会社など、地域経済のテコ入れを図りたい多様なプレーヤーが発行主体に名乗りを上げている。近鉄ハルカスコインの社会実験※4では、参加者のほとんどがスマホ決済は「簡単便利」であり、導入されたら「使いたい」と回答した。新規消費誘発額※5はコイン利用額全体とほぼ同額となり、付与したプレミアム額を上回る消費活性化効果も確認された※6。地域の魅力を組み込んだ仮想地域通貨を設計できれば、域外消費の取り込みや複数回利用を促し、継続的な消費増加につながる可能性がある。

今後、都市部や農村部、観光地など、地域特性や課題に応じた仮想地域通貨が普及し、独自の経済圏が形成されれば、ブロックチェーンにはその経済圏に参加する人々の経済活動の全てが記録される(図)。取引のネットワーク分析は人や企業の結びつきの強さも明らかにし、新しい市場の発見や新たな関係性を構築する契機となる上、AIと組み合わせることで次元の異なるきめ細かいマーケティング施策も可能となるだろう。

技術的、制度的に課題は残るが仮想地域通貨は、地域活性化の切り札の一つとなる。

※1:「電子地域通貨」、「仮想地域通貨」とも呼ばれる。

※2:管理台帳を分散型にすることにより、記録が正しいことを保証する仕組み。

※3:第三者へ繰り返し譲渡可能な特性のこと。現状では多くの電子マネーは1回しか使用できない。

※4:2017年9月から約1カ月、大阪あべのハルカスにおいて5,000名の一般利用者が参加する社会実験を実施。ブロックチェーン技術の社会実験としては国内最大級。

※5:新規消費誘発額=「コインの入手がきっかけとなった商品・サービスの購入額」+「コインの支払いにあわせ追加で支出した現金・カードなど」。

※6:プレミアム付き商品券による消費活性化効果は30~40%が一般的。ただし、利用店舗が百貨店であるなど、近鉄ハルカスコインの社会実験は条件が異なることに留意が必要。

[図]仮装地域通貨経済圏のイメージ