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自動車のGX 電動車の「ワイヤレス充電」とは?

脱炭素交通に向けた期待と進む技術開発

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2023.9.19

スマート・リージョン本部金子法子

高橋香織

MaaS

POINT

  • 電動車利用を快適にするワイヤレス充電の実用化が近い。
  • 走行しながらの充電も可能で電力需要の分散に貢献。
  • バッテリー小型化によりカーボンニュートラルにも効果。

電動車のための新たなソリューション「ワイヤレス充電」

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、政府は2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」※1を閣議決定し、さまざまな分野のGXに関する取り組みを推進することとした。自動車産業では、2035年には「乗用車の新車販売の全てを電動車」に、その後、2040年までに「商用車の全てを電動車か脱炭素燃料車」にする※2などの目標が掲げられた。これは電動車の普及拡大およびインフラ整備の加速が求められていることを意味する。

電動車がガソリン車と同等の利便性を確保するには、インフラ面の充実が急務である。政府は「2030年までに公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置」することを目標に掲げるが、2022年時点の普及台数は、目標の5分の1にあたる約3万基※3だ。ショッピングモールや道の駅で急速充電器を見かけたり、家庭に設置された普通充電器を目にしたりする機会も増えてきたが、「有線充電器」の普及は途上段階にあると言えよう。

しかし、電動車の充電方式の選択肢は有線充電に限らない。近年、国内外で研究開発が進む「ワイヤレス充電」をご存じだろうか。本コラムでは、電動車のワイヤレス充電とその社会効果について紹介する。

研究開発の動向と実装レベル

電動車の普及に当たっては、航続距離の短さや、充電にかかる時間の長さ、それに価格の高さが障害となっていた。この3つを解決しうる技術の一つが「ワイヤレス充電」だ。

これまでワイヤレス充電は、スマートフォンの充電や工場内での産業用搬送ロボットの充電などの分野で普及してきた。そのようなイメージを持つ読者は多いであろう。近年は電動車の分野でも注目を集めている。運転している車に充電できるというと遠い未来の話のように感じるかもしれないが、実用化はすぐそこまで来ている。

停車中ワイヤレス充電(導入段階)

国内外のさまざまなメーカーにて、ワイヤレス充電に対応した車両や、ワイヤレス充電器が開発されている。

BMW※4は一部地域でのワイヤレス充電のパイロットプログラムを実施。Hyundai※5も乗用車へのワイヤレス充電の搭載について言及している。また、北欧を中心にタクシーのワイヤレス充電の実証も進んでいる※6※7。国内では、ダイヘンが電動車用ワイヤレス充電器を製品化している他、新電元工業も開発に意欲的だ。

走行中ワイヤレス充電(研究開発、実験段階)

欧米が先行して、研究開発、実証実験が進む。2023~2024年にミシガン州の公道でのワイヤレス充電の実証実験※8が、2024年にはノルウェーにて公共交通向けの評価実証※9が、それぞれ計画されている。日本では、2025年の大阪・関西万博で、グリーンイノベーション事業での大規模な実証が計画されている。

仕組みとユーザーにとってのメリット

ワイヤレス充電の仕組み(図1)は、地面に敷設した送電コイルから電動車側の受電コイルにケーブルやプラグをつながず電力を供給するというものだ。人の手をかけず充電することができるため、自動運転との相性も非常に良い。
図1 ワイヤレス充電の仕組み
ワイヤレス充電の仕組み
出所:三菱総合研究所作成
ワイヤレス充電を利用することで、図2に示すようなメリットが期待され、電動車はより便利になっていくことになる。
図2 ワイヤレス充電のメリット
ワイヤレス充電のメリット
出所:三菱総合研究所作成

カーボンニュートラルへの貢献

先に挙げたユーザーメリットのほか、その環境メリットにも期待が高まる。

近年は、太陽光発電による発電量の多い日中には余剰電力が発生する一方で、発電量が少ない夕方以降に電気需要が逼迫(ひっぱく)する「ダックカーブ問題」が注視される。電動車が急速に普及した場合、帰宅後の人々が夕方から夜にかけて一斉に充電をすることで、ダックカーブ問題を増長させてしまう可能性がある。そのため電力需要を分散させ、エネルギーを賢く使う方法を考えなければならない。

ここで注目したいのは、ワイヤレス充電の電力需要の分散効果だ。ワイヤレス充電の大きな利点は、プラグの抜き差しに関わらず充電ができるため、充電のチャンスが増えることだ。更に走行しながらの充電が可能になれば、図3に示すように昼間の再生可能エネルギーによる余剰電力を利用できるため、夕方の電力需要を抑制する一助となるほか、蓄電池としても活用できるのだ。それによって、電力需要が平準化されるため、化石燃料由来の発電量も減らすことができる。このように再エネと非常に相性の良いワイヤレス充電は、電力問題を解決するキーともなりうる。

充電の機会が増え、こまめな充電ができること自体もメリットだ。これまで、航続距離を確保するためには、車両に大型のバッテリーを搭載する必要があったが、ワイヤレス充電が普及すれば、小型のバッテリーでも自由な移動を実現することができる。そのため、原料調達・廃棄時などの、電動車のサプライチェーンを通じたカーボンニュートラル効果にも期待が高まる。
図3 ワイヤレス充電による再生可能エネルギーの有効活用イメージ
ワイヤレス充電による再生可能エネルギーの有効活用イメージ
出所:経済産業省資源エネルギー庁※10などをもとに三菱総合研究所作成
電動車ユーザーへ利便性をもたらし、カーボンニュートラルの契機となりうるワイヤレス充電の普及に向けた課題と解決策について、次のコラムで紹介したい。

※1:内閣官房、GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/kihon.pdf(閲覧日:2023年7月10日)

※2:内閣官房、GX実現に向けた基本方針参考資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/kihon_sankou.pdf(閲覧日:2023年7月10日)

※3:経済産業省 自動車課、充電インフラの普及に向けた取組について
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20221111/221111energy13.pdf(閲覧日:2023年7月10日)

※4:BMW Group、Charging even easier than refuelling
https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0281369EN/charging-even-easier-than-refuelling?language=en(閲覧日:2023年7月11日)

※5:Genesis、GV60 CHARGING | CHARGING TECHNOLOGY
https://www.genesis.com/worldwide/en/models/luxury-suv-genesis/gv60/charging.html(閲覧日:2023年7月11日)

※6:Jaguar、JAGUAR I-PACE ELECTRIC TAXIS ON WORLD'S FIRST WIRELESS HIGH-POWERED CHARGING RANK
https://media.jaguar.com/en-us/news/2020/06/jaguar-i-pace-electric-taxis-worlds-first-wireless-high-powered-charging-rank(閲覧日:2023年7月11日)

※7:Volvo、Volvo Cars tests new wireless charging technology
https://www.media.volvocars.com/global/en-gb/media/pressreleases/295720/volvo-cars-tests-new-wireless-charging-technology(閲覧日:2023年7月11日)

※8:Electreon、Electreon Announces First Public Electric Road System for Wireless Electric Vehicle Charging in the US
https://electreon.com/articles/electreon-announces-first-public-electric-road-system-for-wireless-electric-vehicle-charging-in-the-us(閲覧日:2023年7月10日)

※9:Electreon、Electreon Wins the First Electric Road Tender in Norway: The Nordic EV Leader Joins Sweden, Germany, Italy and the U.S. with it’s First Wireless Electric Road for Electric Vehicles (EVs)
https://electreon.com/articles/electreon-wins-the-first-electric-road-tender-in-norway-the-nordic-ev-leader-joins-sweden-germany-italy-and-the-u-s-with-its-first-wireless-electric-road-for-electric-vehicles-evs(閲覧日:2023年7月10日)

※10:経済産業省資源エネルギー庁「なぜ、太陽光などの「出力制御」が必要になるのか?~再エネを大量に導入するために」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/qa_syuturyokuseigyo.html(閲覧日:2023年8月10日)