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自動運転「レベル4」が街を走る

「乗務員同乗型」で早期普及を

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2023.9.26

スマート・リージョン本部十河孝介

MaaS
地域の“足の確保”。
バスの路線廃止や縮小のニュースをよく耳にするようになったが、地方に住む人にとっては生活に直接影響する話である。背景には「ドライバーがいない」という労働力不足など、日本が直面する課題がある。こうした中、期待されるのが、特定の条件のもとで運転手がいない状態で自動運転を行う「レベル4」だ。これをいかに早く普及させるか、紹介したい。

期待が高まる「自動運転サービス」

地方が抱える社会課題の1つに「地域交通の存続難」が挙げられる。その大きな要因の一つが、深刻な「運転手不足」だ。過去20年間で路線バスなどを運転できる大型二種免許保有者は約32%減少しており、うち19~64歳は約41%も減った(図1)。運転手不足に起因する路線廃止・縮小の動きもあり、交通事業者からも喫緊の課題との声が聞かれる。さらに2024年4月からは、ドライバーの時間外労働の規制が強化される。ドライバー不足の深刻化による輸送量の減少が懸念され、「2024年問題」とも言われている。
図1 大型二種免許保有者数(年齢層別)の推移(2002~2022年)
大型二種免許保有者数(年齢層別)の推移(2002~2022年)
出所:警察庁「運転免許統計」を基に三菱総合研究所作成
運転手不足に悩まされる中、期待が高まるのが「自動運転システム」だ。産官学を挙げて研究開発・社会実装が進められている。「SIP-adus」(内閣府)※1や「RoAD to the L4」(経済産業省・国土交通省)※2といった取り組みを通じて協調領域の整備も進み、2023年4月の道路交通法改正によって、特定条件下で運転タスクを完全にシステムが担う「特定自動運行(自動運転レベル4)」が解禁された(表)。

レベル4では、作動継続困難時の安全停止までシステムが担うため、二種免許保有者が不要となる。現時点でレベル4走行が可能な環境は限定的だが、歩車分離されており、路駐車両が少なく、対向車と交差する右折が少ないなど、ある程度整然とした走行環境であれば技術的にも実現可能となっている。運転手不足に直面する中で、レベル4の早期実現が望まれる。
表 自動運転レベルの区分
自動運転レベルの区分
出所:JASOテクニカルペーパ「自動車用運転自動化システムのレベル分類及び定義」(2018年2月)を基に三菱総合研究所作成

無理な「完全無人」は必ずしも正解ではない

バス運転手が運行中に担っている業務は「運転タスク」と「非運転タスク」に分類される。「運転タスク」は、車両の発進・操舵・停止であり、レベル4で無人化できる。一方、「非運転タスク」として、運賃収受、乗降有無確認、バリアフリー対応、車内外トラブル対応など多様な業務が存在する。レベル4で、「非運転タスク」まで無人化するか否かは問われない。

非運転タスクに運転技能は不要であり、二種免許を持たない人でも対応可能だ。加えて、現時点では無人化のハードルも高い。二種免許を持つ専門技能人材は不足しているが、地方全体の視点では「地域に仕事をつくる」ことも重要なポイントとされており※3、非運転タスクを含む「完全無人」を無理に目指すことが、必ずしも正解とは限らないのだ。

なお、諸外国に目を向けると、一部の国・地域では車内完全無人ロボタクシーの社会実装も始まっている。ただし、道路上での予期せぬ停止※4や、眠っている乗客を体調不良と誤判断した緊急通報※5などのインシデントも発生しているようだ。一方、事業者による改善が認められたとして、2023年8月には米国カリフォルニア州がCruiseとWaymoに対し運賃収受を含む営業運行を許可※6しており、今後の動向を注視する必要がある。

「乗務員同乗型」から目指すレベル4

上記の状況を勘案すると、日本のレベル4の出発点として「乗務員同乗型」の妥当性が見えてくる。走行環境に優れた路線において、運転タスクをシステムに任せ、非運転タスクを「二種免許を持たない乗務員」が担う形だ。この乗務員同乗型の利点は大きく3つ挙げられる。

第1の利点は、早期実現性だ。非運転タスクを無人化させるには、自動運転以外の技術も必要となる。当然、この部分の技術開発を進めることも肝要だが、移動サービスとしてはさらなるコスト増大にもつながるものであり、無人化を急ぐ必要性は低い。むしろ、地域交通確保は待ったなしの状況であり、非運転タスクは乗務員が担う形でレベル4を早期実現させる形が望ましい。

第2に、社会受容性が挙げられる。乗客からすれば、ただでさえシステムが運転している上に、車内に乗務員が一切いない状態だと、不安が大きいだろう。これは、歩行者・周辺車両など「周辺交通参加者」も同様と考えられる。二種免許を持っていなくても、乗務員がいれば車内外に安心感をもたらすと想定される。

第3に、新サービスへの拡張性が挙げられる。これは沿線地域のニーズにもよるが、運転タスクを担わない乗務員が同乗することで、新たな付加価値サービスの可能性が出てくる。例えば、医療機関と連携した福祉モビリティ、地元の魅力を発信する観光案内といった形だ。もちろん、通勤・通学目的の輸送であれば、乗客と乗務員のコミュニケーションは最低限しか発生しないが、これにとどまらない新たなサービスの可能性も生まれるのが乗務員同乗型だ。

当然、将来的に完全無人を目指すことは、さらなる労働力不足への対応や省人化によるコスト削減の観点からも重要である。ただし、乗務員同乗型の早期社会実装を経由することの意義は大きい(図2)。

多くの地域で自動運転の実績を積めば技術力が向上し、より複雑な走行環境への対応も可能になる。乗務員同乗型は社会受容性も醸成しやすいため、完全無人の実現を結果的に早めることにつながると考えられる。また、完全無人の実現後も、乗務員同乗型のサービス形態が残存する可能性は大いにある。

安全・安心への意識の高い日本では、完全無人に必ずしもこだわる必要はなく、乗務員同乗型の自動運転も大いに有効である。喫緊の課題である地域交通確保のため、まずは乗務員同乗型を出発点に、多くの地域におけるレベル4の早期導入を期待したい。
図2 乗務員同乗型の必要性
乗務員同乗型の必要性
出所:三菱総合研究所

※1:「SIP-adus」は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期/自動走行システム」(2014~2018年度)および「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」(2018~2022年度)の略称。adusは、Automated Driving for Universal Serviceの頭文字である。

※2:「RoAD to the L4」は、経済産業省・国土交通省「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト」の略称。「自動運転レベル4に代表される、高度な自動運転を用いた移動・物流サービスの実現・普及に向けた道をつくる」という意味が込められている。

※3:内閣官房デジタル⽥園都市国家構想実現会議事務局「デジタル⽥園都市国家構想総合戦略(2023年度〜2027年度)」(2022年12月23日)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/pdf/20221223_gaiyou.pdf(閲覧日:2023年8月31日)

※4:California Public Utilities Commission: Protest of Waymo LLC Tier 3 Advice Letter (0001)(2023年1月23日)
https://www.sfmta.com/sites/default/files/reports-and-documents/2023/01/2023.01.23_protest_of_waymo_llc_tier_3_advice_letter_0001.pdf(閲覧日:2023年8月31日)

※5:California Public Utilities Commission:Protest of Cruise LLC Tier 2 Advice Letter (0002)
https://www.sfmta.com/sites/default/files/reports-and-documents/2023/01/2023.01.25_ccsf_23.0125_cpuc_cruise_tier_2_advice_letter_protest_002.pdf(閲覧日:2023年8月31日)

※6:California Public Utilities Commission:CPUC Approves Permits for Cruise and Waymo To Charge Fares for Passenger Service in San Francisco(2023年8月10日)
https://www.cpuc.ca.gov/news-and-updates/all-news/cpuc-approves-permits-for-cruise-and-waymo-to-charge-fares-for-passenger-service-in-sf-2023(閲覧日:2023年8月31日)