コラム

MRIトレンドレビューMaaSスマートシティ・モビリティ

自動車のGX ワイヤレス充電普及への課題

公道走行に向けた制度設計や標準化を

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2023.9.27

スマート・リージョン本部金子法子

高橋香織

MaaS

POINT

  • 安全で便利なワイヤレス充電普及には制度設計が重要。
  • モビリティと再生可能エネルギー利用の連携を。
  • カーボンニュートラルに向けた相乗効果に期待。
前のコラムで紹介したように、自動車分野のGXを促進する技術としてワイヤレス充電が注目を集めている。このコラムでは、その実現・普及に向けた課題と解決策について具体的に考えていく。

公道での実装に向けた制度化と標準化が課題

ワイヤレス充電を実装するためには、インフラと車両の双方について、既存の法制度への適合と新技術に対する制度整備の観点から制度設計を考える必要がある。道路法、電波法、電気事業法、製造物責任法など多岐にわたる既存の法規に従い、安全なワイヤレス充電器の設置や、車両への受電コイルの搭載、送受電コイル間の電力伝送を行うことが重要だ。

特に、インフラについては路面下の地上側送電コイルや、路側の電源設備など新たな機器を設置することになる。機器の設置にあたっては、関連法規における明確な位置づけが求められる。さらに路面下に埋設する深さ、充電器の最大出力などの諸条件について、法律や規則に基づいた設計、設置の技術的なガイドラインなどを定めなければならない。

車両についても同様で、衝突時の安全性なども踏まえ、車両への受電コイル搭載に関する基準を設ける必要がある。

さらに機器の標準化も不可欠だ。インフラ側、車両側の開発に取り組むメーカー、事業者は国内外に複数存在する。現時点では企業独自で研究開発がなされている段階にあり、特定の車両は特定のワイヤレス充電器でしか充電できない。将来的には、「どのモビリティでも、どのワイヤレス充電器でも充電できる」標準規格が求められる。

モビリティとエネルギーのベストミックスを

自動車分野のGXと一口に言っても、もはや自動車メーカーに閉じた話ではない。電動車を始めとするモビリティ産業と発電・送電などを担うエネルギー産業が高度に連携・協力することにより、以下のような社会が実現される未来は遠くない。
  • 再生可能エネルギーの発電状況や電力の逼迫状況をモニタリングしながら、最適な量のエネルギーが電動車へ充電される社会
  • 地域で生み出された再生可能エネルギーを地域の電動車利用で消費する社会
ワイヤレス充電の導入によりモビリティ産業とエネルギー産業の融合を加速するためには、自動車業界、充電器業界、電力業界、通信業界、道路インフラ業界、その他業界などが連携するとともに、官(国土交通省、経済産業省、総務省、警察庁、自治体など)との連携および、使用者(交通事業者、物流事業者、施設管理者)との連携も必須である。図1に示すような業界連携の推進体制の活性化に期待したい。
図1 ワイヤレス充電を取り巻く業界
ワイヤレス充電を取り巻く業界
出所:三菱総合研究所作成

「ワイヤレス充電社会」実現に向けたロードマップ

「ワイヤレス充電社会」の実現に向けては、技術開発動向や各種制度改正状況、社会的受容性などを踏まえ、段階的に社会実装を進める必要がある。そのためワイヤレス充電の開発に当たっては、図2に示した次の3段階を踏んで技術が普及することが想定されている。
図2 ワイヤレス充電の実用化の段階
ワイヤレス充電の実用化の段階
出所:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2021年1月)「バッテリー軽量化による省エネを実現するEV走行中給電技術に関する調査」成果報告書 P68-70。
図2に示すようにワイヤレス充電の高出力化、高速走行への対応、低コスト化などの技術高度化が進むことで、より利便性が高まるだろう。呼応するかたちで、先に述べたような制度設計および業界連携が進めば、対応するエリアや車両が増えるばかりではなく、その利用ニーズも高まる。

2020年代後半から2030年代にかけて、段階1や段階2に示す特定の領域にて特定の車両への低出力充電が導入される見込みだ。このようなユースケースにおいては、電動車が低速走行するエリアに充電スポットを設けることで、効率的に充電することができる。

段階3に示す街中でも同様で、電動車が低速で滞留しやすい交差点手前に充電スポットを設置することが望ましい。交差点の30m手前で12.5kWの充電ができれば、走行に必要な電力を賄うことができるという試算結果※1も出ている。

段階2に示すタクシー、バス向けのワイヤレス充電、段階3に示す公道でのワイヤレス充電は、すでに海外で実証実験が計画されている※2。国内外の実証を踏まえ、ワイヤレス充電の技術レベル、制度設計・業界連携の深度、さらには各ユースケースにおける投資効果を見極めつつ、実装を進めることが肝要だ。来たるべきワイヤレス充電社会の実現は、脱炭素分野の新たな需要や市場の創出、日本経済の産業競争力強化と経済成長にもつながるだろう。カーボンニュートラルに向けた相乗効果に期待したい。

※1:郡司大輔,畑勝裕,清水修,居村岳広,藤本博志:「信号機前走行中給電の実装方法に関する基礎検討」(文献番号20195356)p1—6 自動車技術会2019 年春季大会学術講演会。

※2:自動車のGX 電動車の「ワイヤレス充電」とは?(MRIトレンドレビュー 2023.9.19)

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