コラム

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事業者のPRと公益性を両立させる官民連携とは?

地域の魅力向上のため官は何をすべきか

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2023.10.13

社会インフラ事業本部廣瀬耀也

MaaS

POINT

  • 官民連携を自社のPRの機会と捉える民間事業者が増加
  • 民間の本業に関連する実証やサービス提供により集客増・公益還元
  • 官の役割は「管理しつつも伴走」することである

“PRの場”として捉えられる官民連携事業

公共施設の運営などに民間の資金やノウハウを活用する「PFI」など、官民連携に参画する民間事業者の顔ぶれは大きく変化している。従来は、建設会社主体のコンソーシアムが主であった。しかし近年では、通信事業者や商社、交通事業者や球団などが、官民連携事業を自社のPRの機会と捉え、運営・維持管理期間中に自社の本業を有効活用したサービス提供を図って参画するケースもみられるようになった。背景には公共施設のサービス提供を長期間担う運営・維持管理者に寄り添った仕組みづくりがある。

振り返ると1999年7月の「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(以下、PFI法)の施行以降、「公募設置管理制度(Park-PFI)」や「公共施設等運営事業(コンセッション)」などの多様な官民連携手法による民間事業者の裁量が拡大されてきた。これに伴い、官民連携は、財政再建といった当初の目的に加えて、民間事業者の新たなビジネス機会としての性質を色濃くしている※1

それに加え、官民連携に参画する民間事業者の多様性を高める制度新設も並行して進んでいる。特に着目すべきものは、「PFI法に基づく民間提案制度」※2と「公共施設等運営事業に関する実施方針の変更手続の創設」※3だ。前者は、民間事業者から公共施設の管理者などに対するPFIによる事業実施の提案、後者は、コンセッション事業期間中の運営・維持管理の実態に即した柔軟な施設の改修の実施を可能とした。

本コラムでは、特に官民連携に参画する民間事業者の多様化が著しい、スポーツ施設・文化・社会教育施設・大学施設などのうち、企業価値を高める実証・PR等の事業展開を行った上で、かつ公益性も担保している事例に着目し、効果と留意点を考察する。

実証・PRで集客交流を促すことで公益に還元

自治体が民間事業者の本業を活用した官民連携の好例(表)として、前述の「PFI法に基づく民間提案制度」を活用した「等々力緑地再編整備・運営等事業」が挙げられる。この事業は、2019年の東京急行電鉄株式会社(以下、東急)からの等々力緑地の一体整備に関する民間提案を受け、川崎市が事業化した。2023年4月に川崎市と川崎とどろきパーク株式会社との間で事業契約が締結され、東急、川崎市に本社を有する富士通株式会社(以下、富士通)、サッカーチーム運営会社の株式会社川崎フロンターレ(以下、川崎フロンターレ)など川崎市に根差す企業と、丸紅株式会社など多様な企業により、事業が進展していく見込みである※4

また運営開始に先立ち、等々力緑地内の広場「川崎フロンパーク」で、川崎フロンターレと富士通が来場者の行動分析の実証を行うなど、テクノロジーを融合させた新たなユーザー体験の提供を継続的に実施していくことで、等々力緑地の魅力を高め、地域住民のウェルビーイング向上に貢献することを目指している※5

当社が協力企業として参画している「有明アリーナ管理運営事業」も好例である。この事例は、特別目的会社の株式会社東京有明アリーナに出資している株式会社NTTドコモの「高密度Wi-Fiサービス」の技術を有明アリーナに導入し実証している。Wi-Fiの認証を取得する時の利用者属性を、施設運営・マーケティングに活用するなどして、顧客体験価値に還元する計画だ※6

その他の事例として、北広島市が固定資産税と都市計画税を10年間免除することで、プロ野球の北海道日本ハムファイターズを誘致した「北海道ボールパークFビレッジ」があげられる。この事例は、北広島市が北海道日本ハムファイターズに提案した「ボールパーク構想」の実現に向けて「オール北海道ボールパーク連携協議会」を組成するなど、集客施設と地域の連携のために、官が積極的に民間事業者と伴走している※7

いずれの事例とも、各種取組で得たデータなどを活かした本業の改善のみを追求するのではなく、公益還元も目的として本業に係る実証やサービス提供を行っている。これにより、結果的に集客増を促し、収益性の担保と本業の利用者増につなげ、集客施設を基点とした好循環を生み出すことで、官民双方がWin-Winとなるような官民連携のあり方を実践している。
表 民間事業者の本業を活用した官民連携の好例
民間事業者の本業を活用した官民連携の好例
出所:三菱総合研究所

官は管理だけではなく伴走の発想を

以上の通り、官民連携を通じた民間事業者の本業に関する実証やサービス提供は、その施設が立地する地域の魅力向上に資するため、積極的に官が推進していく必要がある。この好循環を促すためには、官側が、民間事業者が参画するハードルを下げることが重要である。

この好循環を維持するためには、官側が、「事業者が官の示す水準を達成しているか」を重点的にモニタリングする「管理」の発想にとどまるのではなく、「事業期間を通じて好循環を維持するために官民双方が何をすべきか」といった「伴走」の発想が求められる(図)。

「伴走」を行う上では、事業開始前に官民双方が「集客施設が立地する都市・地域のあるべき姿」「民間事業者内における本業の今後の展開」「双方を満たす本業に係る実証やサービス提供の詳細」を丁寧にすり合わせ、その全体像が順守された形で実施されているか、官民双方の目で確認していくことが重要である。
図 集客施設での本業に係る実証やサービス提供による好循環と留意点
集客施設での本業に係る実証やサービス提供による好循環と留意点
出所:三菱総合研究所

※1:2023年6月に内閣府より公表された「PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)」の中では、「民間事業者の新たな雇用や投資を伴うビジネス機会の拡大」がPPP/PFIの基本的な考え方として示されている。
https://www8.cao.go.jp/pfi/actionplan/pdf/actionplan_r5_2.pdf(閲覧日:2023年8月25日)

※2:内閣府「PFI事業民間提案推進マニュアル」(2014年9月)
https://www8.cao.go.jp/pfi/hourei/tsuutatsu/26fy/pdf/minkanteian-manual.pdf(閲覧日:2023年8月25日)

※3:内閣府「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)の一部を改正する法律(令和4年法律第100号)の概要」(2022年12月)
https://www8.cao.go.jp/pfi/hourei/kaisei/pdf/r4kaisei_n_gaiyou.pdf(閲覧日:2023年8月25日)

※4:川崎市「等々力緑地再編整備・運営等事業 事業契約を締結しました」(2023年4月4日)
https://www.city.kawasaki.jp/530/page/0000150145.html(閲覧日:2023年8月25日)

※5:富士通株式会社「川崎とどろきパークによる等々力緑地の事業開始について 富士通、川崎フロンターレとともに等々力緑地にてテクノロジーとスポーツを活用するまちづくりを推進」(2023年4月4日)
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2023/04/4.html(閲覧日:2023年8月25日)

※6:株式会社NTTドコモ「有明アリーナでの新たな体験を実現する「高密度Wi-Fiサービス」を提供開始-Wi-Fiを活用し、スポーツやコンサートにおける双方向コミュニケーションなどを実現-」(2022年8月19日)
https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/2022/08/19_00.html(閲覧日:2023年8月25日)

※7:北広島市「オール北海道ボールパーク連携協議会について」
https://www.city.kitahiroshima.hokkaido.jp/ballpark/detail/00139846.html(閲覧日:2023年8月25日)