マンスリーレビュー

2018年1月号トピックス2スマートシティ・モビリティ

新たな民間ファンドが観光立国には不可欠

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2018.1.1

地域創生事業本部堀 健一

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 観光立国の実現に向けて旅行者ニーズの多様化や高度化への対応が鍵。
  • 個別の地域では成功例が出ているが、ほかでも有効とは限らない。
  • 蓄積された資金やノウハウを全国展開できる民間ファンドが必要。
観光立国の実現は地方創生の切り札とされる。政府は2016年に2,400万人超だった訪日外国人客を2030年に6,000万人まで増やす目標を掲げている。訪日客数が増えるに従い、旅行者ごとのニーズ、宗教や習慣の違いへの対応が求められる。宿泊施設やサービスも多様化と質の向上を迫られる。マーケティングの高度化や観光業の経営者育成も急務である。

こうした課題の解決に向けて、官民ファンドのREVIC(地域経済活性化支援機構)は宿泊施設に対し、資金を提供するだけでなく、ノウハウを持つ専門の人材を派遣して経営を支援している。

地域単位でも取り組みが進んでいる。広島県など瀬戸内7県で構成する「せとうちDMO」※1は、国内外のベンチャー企業と連携し、域外との電子商取引やオンライン宿泊予約を促進。古民家や歴史的建造物を簡易宿泊所に改修し、滞在日数を延ばす取り組みを進めている。地元金融機関によるファンドからの出資も含めて人材・情報・ノウハウ・資金を結集し、観光業の裾野を広げている。

しかし、特定地域での取り組みを、事情の違うほかの場所でそのまま行っても、旅行者の評価は得られないだろう。使えるリソースも地域によって千差万別だ。また、多様化・高度化する旅行者ニーズに応えるには、経営やマーケティングだけでなく、施設の効率的な建設・管理やブランディング、データ活用、人材活用などに関する多様なノウハウも不可欠となる。こうした条件を満たすには、リターン確保を最優先しながら成功モデルを作り出す民間ファンドが有用と考える。多様な事例・アイデアを集め、全国的なネットワークを持つ組織として機能するだろう。

成功モデルづくりを通じて蓄積された資金やノウハウを、各地の独自の魅力と組み合わせることができれば、観光業の実力を底上げできる(図)。地方創生の観点からCSV(共通価値の創造)に取り組もうとする民間企業が増えている中で、オールジャパン的な観光活性化が進むことを期待したい。

※1:Destination Management/Marketing Organizationの略。観光地のマネジメントとマーケティングを一体的に担う組織。政府が提唱する「まち・ひと・しごと創生基本方針」には、地域の観光振興を戦略的に推進する主体として、日本版DMOを育成・支援することが盛り込まれている。

[図]新たな民間ファンドによる観光立国の実現