マンスリーレビュー

2018年8月号

MRIマンスリーレビュー2018年8月号

巻頭言|百年に一度の大変革を活かすために

常務執行役員 コンサルティング部門長 岩瀬 広
複数の要素が重なり合うと、思わぬ大きな結果がもたらされることは、相乗効果としてよく知られている。今、自動車業界にはかつてない大波が押し寄せている。EV化、自動運転化、コネクテッド化、シェアリング化の4つである。これらの組み合わせによる相乗効果は、T型フォードによる世界的なモータリゼーションの幕開け以来の、百年に一度の大変革をもたらす。

デリケートな内燃機関の制御を不要にしたEVは、サプライチェーンを大きく変え他業界からの参入障壁を一気に引き下げた。人を運転作業から解放する自動運転は、移動時間を価値ある時間へと反転させ、多様なニーズやサービスを生む。インターネットと繋がるコネクテッド化は、情報から遮断された閉鎖空間を多機能空間に変え、膨大な位置情報や周辺情報を蓄積する。所有から使用に変わるシェアリング化は、自動車台数を激減させる。

これらの変化が重なり合うと、自動車産業に大きな構造変化をもたらすだけでなく、生活、産業、社会をも大きく変えることになる。例えば、自動運転とシェアリングが重なることで、高齢者が気軽に外出できて高齢化社会の課題の一つが解決される。コネクテッド化で蓄積された移動情報と自動運転が重なることで渋滞緩和や回避がさらに進む。もちろん、通勤時間に仕事ができれば生産性が向上し労働力不足が緩和する。当社試算によれば、EVと限定的なシェアリングのみが普及した場合と、高度な自動走行やシェアリングも併せて普及しさまざまなモビリティ・サービスが充実する場合とでは、産業全体の付加価値額に約7兆円の差が生じた。

重要なのはこれらの大変革が、経済面のみならず環境や高齢化、労働力不足といった、世界が直面する社会課題の解決に繋がることだ。しかも、政府主導ではなくビジネスベースで変革が進む。むしろ政府は変革にブレーキを掛けないよう法整備などを促進する役割だ。企業には、変化の先に何があるかを見極めて、ビジネスチャンスをつかむ努力が、より求められる。
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