マンスリーレビュー

2018年8月号トピックス1ヘルスケア食品・農業

「バイオエコノミー」の推進に不可欠なこと

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2018.8.1

ヘルスケア・ウェルネス事業本部池田 佳代子

ヘルスケア

POINT

  • ゲノム解析・編集技術を産業利用する「バイオエコノミー」に脚光。
  • 共通基盤を共同研究で整備することが得策。
  • 官民協働で効果的なイノベーションシステム実現を。
生命のゲノム情報の新たな解析手法が次々と生み出され、生物の潜在的な機能を引き出して活用することが可能となっている。筑波大学では、酵素遺伝子にゲノム編集を行い、高濃度のGABA(γアミノ酪酸)を含有する機能性トマトを開発した※1。このトマトは高血圧の予防効果が期待されるGABAを、通常の約15倍も含んでいる。

このように、生物機能をものづくりやサービス提供に活用することを「バイオエコノミー」と呼び、対象分野は農畜産物、食品、医薬品、化学品、環境浄化など多岐にわたる。経済協力開発機構(OECD)では、2030年にバイオエコノミー市場が約200兆円(加盟国GDPの2.7%)に拡大すると見込んでおり※2、持続可能なイノベーション領域として注目されている。

バイオエコノミーを実現する技術の中枢は、ゲノム情報の解析と編集、そしてAIやビッグデータ解析などであり、企業や研究機関はこれらに個別に取り組み、実用化を競争している。しかしながら、個別に生物データの収集とデータ解析のプロトコル整備をするのは、負荷が大きく非効率である。生物機能の情報を集積した共通のデータプラットフォームを構築し、自由に活用することで、効果的なイノベーションシステムを実現することができるだろう(図)。

共通のデータプラットフォームを構築する動きは海外が先行している。米国ではエネルギー省と国立研究所9施設が設立した「Agile BioFoundry(ABF)」というコンソーシアムがある。企業や行政が対象として選んだ物質のビッグデータを集積することで、実用化における設計から製造、試験などに要する期間の50%短縮を狙っている。

日本では、創薬分野で、塩野義製薬や武田薬品工業などが人間の体内細菌分析を産学連携で推進するコンソーシアムを設立しており、今後の活用が期待される。このように、日本でもバイオ・ビッグデータの集積が進み始めたとはいえ、一部のプラットフォームでは商用利用が制限されていたり、ターゲット領域の選定などが十分でなかったりするなどの課題もある。今後は柔軟性をもって企業・研究機関間の相互利用ができるプラットフォーム実現が不可欠だ。

※1:「健康促進トマトとして期待 ゲノム編集技術を利用してγアミノ酪酸(GABA)高含有トマトを作出」(2017年8月1日、筑波大学発表)

※2:2009年にOECDが報告書「2030年に向けたバイオエコノミー」を公表して、試算を示した。

[図]バイオエコノミー分野の相互活用イメージ