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2018年8月号トピックス4防災・リスクマネジメント

第4次産業革命で再注目される「リスクベースの保安」

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2018.8.1

科学・安全事業本部西郷 貴洋

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 第4次産業革命など技術・社会動向の変化は保安のあり方にも影響。
  • 仕様や基準に基づく保安から、リスク評価を活用した保安へ。
  • 保安水準を維持向上しつつ、生産性・稼働率のアップを。
第4次産業革命と呼ばれるIoT、AIなどのコア技術を用いた生産革命は、規制を含む産業全体のあり方の変革を促している。日本においては国が提唱する戦略「Connected Industries」でその方向性が示されており、重点施策の一つとして「プラント・インフラ保安」が位置づけられている。

日本のプラント保安は、国が示した技術基準の解釈が実質的なスタンダードとなっているという特徴があり、事業者自身が裁量によって保安の手段を選択する発想は、必ずしも浸透していない。米国のように民間主導で保安手法に係る規格が策定される国とは一線を画する。しかし、IoTやビッグデータ解析など新技術の普及に伴って、民間主導の迅速な意思決定のもとで保安に取り組み、国際競争力の強化を図る必要が生じている。

Connected Industriesにおいては「IoTを活用した自主保安技術の向上」と並び「企業間のデータ協調に向けたガイドラインなどの整備」が言及されており、プラント会社など数社が配管内の腐食に関するデータを持ち寄って腐食予測モデルを構築したり、リスク評価に応じた効率的なメンテナンス計画策定に活用できる機器の損傷確率データベースを構築したりといった実証事業が行われている。これらの実証の根底にある保安の考え方は、事業者自らがリスク評価を行い、結果を活用して保安の手法を決め、規制当局が適切性を確認する一連のプロセス「リスクベースの保安」である。

米国では1980年代から石油業界などが民間主導でリスクベースのメンテナンス手法に係る規格などを策定し、規制当局が確認するというプロセスが働いている。日本でもかねてよりメンテナンス手法の観点から「リスクベース」の概念は提唱されていたが、今後は規制を含む産業全体のあり方の議論が必要である。プラント事業所の保安能力に応じて認定される「スーパー認定事業所制度」※1の活用促進が一例である。また、事故が起きた場合に規制当局や事業者に対し、公正な調査・勧告を行う第三者機関も必要だが、その設置に関する議論も不十分である。官民が手を携えて新たな保安の仕組みを構築する重要性は、今後ますます高まるだろう。

※1:2017年に経済産業省が開始した。連続運転期間をリスク評価に応じて延長できる(上限あり)などのポジティブインセンティブがあり、稼働率の向上が期待できる。

[表]「仕様や技術基準に基づく保安」と「リスクベースの保安」の比較