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2018年8月号トピックス3経済・社会・技術

Connected時代に勝ち残る「専門性グローバルニッチ」戦略

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2018.8.1

政策・経済研究センター吉村 哲哉

経済・社会・技術

POINT

  • プラットフォーマーの台頭で、ものづくり企業の地位が相対的に低下傾向。
  • 特定業界のプロ顧客を囲い込む「専門性グローバルニッチ戦略」が有効。
  • 世界を相手とする「マスカスタマイゼーション」の体制構築も重要。
IoTが普及して「Connected」がキーワードとなる昨今、グーグルやアップルのように、事業の基盤となる製品やサービスを提供する巨大企業が、利用データの収集、流通の面で台頭している。これに伴い、ものづくり企業の地位は相対的に低下している。

ただ、「プラットフォーマー」と呼ばれるこうした巨大企業は、広くデータを囲い込んではいくものの、特定業界のプロの領域にまでは容易に入り込めない。例えば、医療、福祉、調理、芸術、スポーツ、研究開発現場など、専門家が多く活躍する領域では、その道のプロならではの世界を十分に理解しなければ、話をすることさえ難しい。

そこで有効なのは、特定業界のプロ顧客がもつ専門性を理解し、最適なソリューションを提供できる力を武器に、プロ向け市場を開拓してグローバルに発展する「専門性グローバルニッチ」戦略であろう。

この戦略に不可欠な要件は三つある(図)。第一に、プロ顧客が求めるハイレベルな提案ができる資質を備えた「専門人材」である。第二に、自社の技術にこだわらず、ユーザーにとって最適な技術を調達してくる「目利き力」。第三に、汎用品を基本に顧客の多様なニーズに合わせる「マスカスタマイゼーション」の仕組みである。

例えば、世界の調理人に高く評価されているドイツのオーブンレンジ専業メーカーであるラショナル※1は、「シェフのためのシェフによる会社」を標ぼうしている。従業員1,900人のうち約400人は元調理人である。世界各国の調理レシピを組み込んだ製品は多様な使い方に対応している。

日本にも、消防車の出荷台数で世界上位のモリタHD、脳波計の世界シェアがトップの日本光電など、特定の業界ではよく知られている企業が存在する。

専門性グローバルニッチ戦略は、これら専業メーカーに限らず、複数の事業部門を抱える大手企業においても採用可能である。ただし、その場合、事業部門への権限移譲、部門全体での専門性共有、経営意思決定のスピードが前提となる。たとえプラットフォーマーが世界市場を覆いつくしても、日本企業の競争力はまだまだ伸ばせる。

※1:世界シェア50%超。4年間に5割増のペースで売り上げを増やしている。この間、M&Aは実施していない。

[図]「専門性グローバルニッチ」戦略