マンスリーレビュー

2018年8月号トピックス5デジタルトランスフォーメーション

地域への資金供給はビッグデータ活用で

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2018.8.1

コンサルティング部門 金融イノベーション本部舟木 貴久

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 中小企業向け融資は担保・保証よりも事業性評価が重視される方向に。
  • 融資の審査スキルは、人的能力に加えて、金融技術の活用で高度化できる。
  • 地域性を反映したビッグデータ活用が適切な資金供給と活力向上に寄与。
情報通信技術と金融工学が融合して金融サービスが高度化するのに伴い、経済の基盤を担う中小企業が資金調達を多様化させつつある。経済活動の血液である資金を地方に供給してきた地域金融機関は、中小企業への融資手法を変革する時期に来ている。

中小企業庁のアンケートによると、資金調達の手法は、経営者個人や信用保証協会が返済を保証したり、不動産を担保とするなどの従来型が主流のままだ。しかし、中小企業が最も希望する調達手法は、保証や担保ではなく、自社の事業性そのものの評価に基づいた借り入れである。実は金融機関の側も今後、この融資手法に一番重点を置きたいと考えている(図)。金融庁も、地域金融機関による担保・保証に依存しない融資を後押しするなどしている。

ただ、リスクに応じた適切な金利で融資を行うのは簡単ではない。金融機関は、地域企業との信頼関係を構築しつつ必要な情報共有を進め、持続的に事業性を評価していくことが求められる。しかし、市場の環境変化に伴い、さまざまな事業の将来性を適切に審査することは困難になっている。経験とスキルを積み重ねてきた融資担当者に審査ができる人材の育成を依存するにしても、限界がある。金融機関が人的能力を補うには、金融と技術が融合したイノベーションの活用が不可欠になってきた。

海外では、電子商取引の履歴などを分析して、融資の可否や条件を判断する仕組みが広がりつつある。例えば、ソフトバンクの出資を受けた米国のフィンテック企業Kabbageは、小口法人向けに月利1%以上で35億ドル超の融資実績がある。ビッグデータの活用で融資の裾野を広げ、適切なプライシングを可能にした。

地域金融機関は、口座情報や企業の生の声など、ほかの業態では持ちえない、地域に根付いたビッグデータを保有している。これらのデータを人工知能で分析し資金需要とリスクを算出することで、顧客に応じた適切な金利設定や無担保融資ができるようになる。ビッグデータの活用によって、資金ニーズへの迅速な対応や、これまで手が届かなかった地域企業への資金流通が可能となり、地域の活力向上につなげられる。
[図]中小企業の借り入れ(現状と希望)と金融機関の貸し出し(今後重点化)