マンスリーレビュー

2020年8月号

MRIマンスリーレビュー2020年8月号

巻頭言|新常態で新たな価値創造を

常務執行役員 岩瀬 広
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、100年に一度と言われるような脅威を世界中にもたらしている。これにより、従来のビジネスモデルや人々の暮らしの前提となってきた「効率性重視の集中」から「安心安全重視の分散・非接触」を志向するという新しい社会の潮流が出現した。持続的な成長を考えれば、これは将来にわたっての不可逆的な本質変化となろう。

また、バーチャル技術の飛躍的な進展は、移動や混雑を伴うリアル活動の代替性を高めた半面、リアルの価値を相対的に高めた。当社が6月に実施したアンケート調査(生活者5,000人対象)によると、一般的な日常生活ではデジタル技術を積極的に利用したいという回答は33%だったのに対し、旅行やスポーツ観戦、コンサートなどではVRといった疑似体験利用の意向は16%と少なく、47%は実際にその場所に行きたいと回答している。今後、リアルとバーチャルを使い分ける新常態においても、リアルの価値はより高まるだろう。

これらのことは、今後企業が進むべき方向を考える上で一つのヒントとなる。コロナ禍によって大きな需要減に見舞われた企業にとっては、中長期的な視点での需要回復が大きなテーマとなる。しかし、前述のような不可逆的な変化がある以上、従来と同じサービスを提供するだけでは需要をコロナ以前の水準に戻すことは困難だ。接触回避を前提とした新しいサービス、リアルとバーチャルを組み合わせて新しい価値を提供するサービス、さらには高まるリアル価値を追求したサービスなど、新たな需要を創造することが今後、より重要になる。加えて、これらの付加価値増で効率性の低下を補いつつ、ゆとりある客席構成など集中を避けた分散形態によってその需要を満たす必要もある。

企業は、戻らない需要を追い続けることなく、新たな需要を開拓することに資源とエネルギーを振り向けるべきだ。これこそが、多大な損失をもたらしたコロナ禍が生み出した未来へのレガシーとなる。
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