マンスリーレビュー

2019年11月号

MRIマンスリーレビュー2019年11月号

成熟社会における課題解決

副理事長 本多 均
山積した社会課題をAIやIoT、ロボットなどの革新技術で解決しようとする産官学の取り組みが活発化している。ここで重要なのは、少子高齢化・人口減といった成熟社会に向かう今、解決策の影響が波及し新たな課題を次世代に遺(のこ)すのを防ぐことだ。

そのために二つの点に留意したい。まずは解決策のもたらす影響の範囲が連鎖を通じて予想外に広くなりかねないことだ。その例が自動車の普及だ。高い利便性を提供した半面、事故や大気汚染などの外部不経済をもたらした。さらには一部で自動車の利用を前提とする居住地の選び方と生活様式を生み、市街地のスプロール化をも引き起こした。こうしたことから幾つかの都市では、中心市街地に路面電車を整備するなどして、高齢者も快適に暮らせるように再生が進められている。このように後々になって是正策が求められるほど、解決策のもたらす影響が連鎖して予想外の課題が発生しうる。

もう一つは、そうした連鎖は人々の考え方で変わり、後にその人々の考え方、生活をも変化させることだ。人生100年ともいわれる長寿化の中で進む働き方改革などは高齢者や女性の社会参加を通じ、人々の価値観や社会通念を大きく変えうる。従来と同じ施策を講じても、影響する構図が今後も同じとは限らず、人々の考え方の変化を見通すことが従来にも増して重要になる。車の自動運転などで行われている産官学『民』の実証実験手法は、他課題でも積極的に活用したい。性別や世代を問わず各地のさまざまな人々の受け止め方を確認して全体を俯瞰(ふかん)できるからだ。そうすれば技術面や直接的効果を検証するだけでなく人々の価値観や生活への波及的な影響まで見定めるヒントも得られ、解決策に反映できる。

今後の課題解決では、その広範な影響がプラスに働くようにすることが必要だ。過去の経験に学びつつも、経済成長や経済合理性を中心とした従来の価値観や社会通念が人々の中でどう変化するか常に注視しつつ取り組みたい。
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