マンスリーレビュー

2019年11月号トピックス4デジタルトランスフォーメーション海外戦略・事業

暗号資産経済圏における新たなルールメーカー

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2019.11.1

社会ICTソリューション本部河田 雄次

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 暗号資産(仮想通貨)を取り巻く経済圏は拡大途上だが、金融犯罪も激増。
  • 暗号資産経済圏に対する金融行政のあり方が大きく変化する兆し。
  • 新たな経済圏のルールメーカーを目指し、一丸となった取り組みが必要。
改正資金決済法の成立※1により「仮想通貨」は「暗号資産」へと法令上の呼称が変更された※2。呼称変更の他、金融商品取引法や金融商品販売法の適用など、利用実態に即した制度面の対応強化が図られる。暗号資産の経済圏(マーケット)は、2018年こそ低迷したが、2019年9月時点で時価総額約30兆円、1日当たりの取引量約10兆円と再び拡大しつつある※3。Facebookが主導する「リブラ」を含め、金融取引の仕組みが大きく変わる中、投機的な売買や金融犯罪への対応が本格的に進み始めた。

背景には、暗号資産経済圏を脅かす金融犯罪などが今後さらに拡大することへの懸念がある。暗号資産には一般に特定の管理者は存在せず、当事者間でのみ取引が行われるため、規制対象先の特定や実態把握は極めて困難である。各国の管轄権をまたいでグローバルに取引が行われることから、ダークウェブ上のマーケットでの違法売買、取引所からの不正流出や経済制裁回避を目的とする金融犯罪の取り締まりも一国だけでは難しい。プライバシー保護に利用される取引秘匿化技術の悪用も懸念される。

そのため、2019年のG20やFSB(金融安定理事会)では、金融行政の新たな枠組みとして「マルチステークホルダー型アプローチ」が提起された。各国の金融当局を頂点とするトップダウン方式から、国を横断した産学官民の幅広いステークホルダーが市場規範や技術開発などを含めた多面的な対応を推し進めるボトムアップ方式への転換を図ることで、新たな経済圏に即した対応を目指す試みである(図)。

日本は、世界に先駆けて交換業者の登録制度を導入するなど、規制面で世界の一歩先を行く。しかし、新たな経済圏のルール作りについては、官を除く民間(産学民)の取り組みが海外に比べて消極的であるという課題が残る。マルチステークホルダー型アプローチ実現には、今こそ民間からの幅広い参画が不可欠である。非競争領域ならば同業との大同団結のマイナス効果も生じにくい。G20で示されたゲームチェンジの可能性を最大限活かすよう、自らがグローバルなルール作りを主導する気概の下、まさに日本においても業界一丸となった取り組みが求められている。

※1:2019年5月に成立。

※2:施行は2020年4月の見込み。

※3:CoinMarketCap。(2019年9月時点)

[図]暗号資産を巡る金融行政の変化