第3回:東南アジア諸国における金融ITシステムの安定化に向けて

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2020.8.28

社会ICTソリューション本部今関俊行

社会・経営課題×DX

POINT

  • 金融サービスの発展で、ITシステムの管理/監督の重要性が増大。
  • 東南アジア諸国では、金融監督当局のノウハウ不足が課題。
  • 日本の知見や経験の共有が金融ITシステム安定への貢献に。
カンボジア、ラオス、ミャンマーおよびベトナムなど東南アジア途上諸国の金融業界でも、モバイルを活用したサービスの展開が盛んに行われ、サービス基盤の情報技術(IT)化が進展している。こうした状況は、ビジネス拡大を目指す市中金融機関の積極的な取り組みはもちろん、世界銀行などによる金融包摂(あらゆる人々が金融サービスを利用でき、その恩恵を受けられること)への取り組みでのモバイルの活用にも後押しされている。

日本銀行は中期経営計画※1の中で、金融へのITの影響と取り組みの重要性に言及している。同様に、東南アジア途上諸国の中央銀行などの金融当局においても、IT化による影響の拡大と向き合いながら、金融監督業務にあたることが求められている。急速な金融サービスの発展と市中金融機関のサービス基盤の相互接続が進む中、情報漏えいや不正アクセスの懸念が指摘されている。金融当局は、そうした懸念の中でも、顧客の保護や安定的な金融サービス提供を維持する責務がある。実際、主体的に運用する金融サービス基盤の管理および市中金融機関のITシステムの監督に関心を持つ声は、当方が東南アジア現地の当局者にインタビューした際にも聞かれた。一方で、ITを活用した金融サービスに対する制度に加えて、基本となるITシステムに関する管理および監督ノウハウの不足が課題であると認識する声も聞こえてきた。ITを専門としない組織がITに対応することの難しさが制度整備の足かせとなっていることは想像に難くない。そこには発展が急速であったが故に人材育成が進まず、環境変化に対応しきれていない実情が見える。

これまで、日本の金融当局および市中金融機関双方は、FISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準や国際金融ルールに準拠するように、国内の金融ITシステムの管理/監督への取り組みを行う中で知見や経験を蓄えてきた。これらの知見や経験は、これから枠組み作りを進める東南アジア途上諸国にとって有益な情報であり、現地の金融サービス基盤の安心/安全な運用に貢献するだろう。今後は、金融サービス基盤が国を超えて相互接続され、より密接な関係性を持つようになる。こうした分野における日本の知見を活用することで、東南アジア地域ひいては日本の金融サービスのさらなる発展や安定が広がることを期待したい。

※1:日本銀行「 日本銀行 中期経営計画(2019~2023 年度)」(2019年3月22日)
https://www.boj.or.jp/about/activities/strategy/data/hoshin19.pdf(閲覧日:2020年8月5日)

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