マンスリーレビュー

2021年10月号トピックス1デジタルトランスフォーメーション海外戦略・事業

台湾のデジタル化と今後の日台連携

2021.10.1

海外事業本部河村 憲子

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 台湾は製造偏重から脱却してAIなどデジタル投資を強化。
  • グローバル展開に向けて先端技術を日本市場で実証する動きも。
  • 日本企業は台湾との連携で東南アジアなどへの事業拡大を。

競争力を維持するために

台湾は半導体製造で世界的ハブの地位を確立し、コロナ禍でも堅調な経済成長を維持している。しかし、半導体の供給不足が解消されるとともに、製造コストが安い中国が半導体に本腰を入れれば、その地位を脅かされる可能性がある。

半導体製造などへの一辺倒から脱却して競争力を維持し続けるには、ソフトウエアでいかに付加価値をつけるかが鍵となる。

デジタル化投資が着実な成果

2016年発足の蔡政権は2017~2025年を対象とする「デジタル国家革新的経済開発計画(DIGI+計画)」でデジタル化投資を加速させた。2018年には「AI行動計画」を打ち出し、AIにおいてもアジアのハブになるべく、人材育成やエコシステム形成のための施策を次々と打ち出した。

一連の施策は着実な成果を上げている。台湾のデジタル経済市場規模※1は、DIGI+計画最終年度の2025年には6.5兆台湾ドル(約26兆円)と、2019年比で4割程度拡大する見通し※2。国際経営開発研究所(IMD)の2020年世界デジタル競争力ランキングでも11位と、27位の日本を引き離した。AI関連の国際論文数の増加も顕著だ※3

新産業育成も進んでいる。AI技術を使って端末数万台のサイバーセキュリティを一元管理できるサービスを提供しているCyCraft社は、米調査会社ガートナーから最高ランクの評価を受けた。台湾での米国勢の動きとしては、マイクロソフトが2018年にAI研究センターを設置し、グーグルもAI開発体制を強化している。こうしたメガクラスの動きが、さらなる人材、技術、資本を台湾に呼び込む可能性がある。

日本市場での実証からグローバル展開へ

日本のすぐ近くで誕生しつつある「デジタル・AI開発ハブ」は、日本企業にとっても、新しいビジネスを生み出す種の宝庫となる。

日本には1億2,000万人規模の市場があり、半導体製造装置やデジタル技術の開発におけるユースケース分析に適している。人口面の制約がある台湾の企業にとって、先端技術のグローバル展開に向けた実証を行う場として魅力的なはずだ。実際にCyCraft社も主力製品の日本展開を図っている※4

海外展開では、台湾は東南アジアへのアクセスもよい。蔡政権は政策的にも、東南アジアやインドとの連結性を重視している。日本市場での実装は、人口増が今後も見込める東南アジアやインドをはじめとしたグローバル市場に展開する上でのテストベッド(実験場)の位置づけにもなるだろう。

例えば、台湾にDX開発センターを設け、そこに集まる人材や技術を活用しながら、日本市場による実証を通じ、今後の経済成長に向けてDXに本腰を入れ始めている東南アジアなどの市場に日台企業連携で乗り込むことも考えられる。

そのためには、日本企業が台湾のデジタル分野での強みや立地、政策の方向性を的確に理解し評価することが必要である。

※1:デジタル技術をもとに創出される価値の総額。

※2:「現階段推動成果下一階段規劃報告(2020年11月30日)」

※3:2017~2019年の論文数は2014~2016年の2.2倍の125件。 

※4:当社ニュースリリース「三菱総合研究所、『CyCraft AIR』を用いたAI主導型セキュリティオペレーションサービスを提供開始」(2020年10月19日)