マンスリーレビュー

2021年10月号特集2ヘルスケアデジタルトランスフォーメーション

予防医療を加速させる3つのデジタル技術

2021.10.1

ヘルスケア&ウェルネス本部斉藤 卓也

ヘルスケア

POINT

  • 近年は「予防医療」に着目した製品・サービスの実装が活発化。
  • 海外ではアプリによる介入実験が行われ、効果が出始めている。
  • 継続を阻む3つの壁を新たな技術の活用によって克服できる。

医療は「診断・治療」から「予防」へ

診断・治療といった従来の医療技術に加えて、近年では、疾病にかかる前の段階で早期に予防し、医療介護費を減らすことが期待できる予防医療技術が注目されている。

例えば、スマートフォンなどのモバイル端末のアプリ、身体情報を簡便に測定できるセンサーやウエアラブルデバイスなどを医療(予防、診断、治療など)に応用する動きが盛んになり、すでにいくつかの製品は規制当局の承認を受けて流通している。

しかし、予防医療には継続を阻む壁が立ちふさがり、健康管理の取り組みを始めても、続かなかったということを経験した向きも多いと思われる。

予防医療の継続を阻む3つの壁

第1の壁は、予防医療の取り組みの初期段階では、自身の身の丈に合った目標の設定や取り組み方法が分からないために、いつ何をどの程度行えばよいか決められず、具体的なアクションに移せないことである(表)。

第2の壁は、取り組みをする中で共に頑張れる仲間がいないことで、飽きてしまったりモチベーションが維持できなかったりして、取り組みをやめてしまいがちなことである。

第3の壁は取り組み後の効果が都度実感できないことによって、本当に健康の維持・向上につながっているのかを認識できないことである。

3つの壁のどれか1つでも越えられないことで、取り組みをなかなか始められない、または始めても途中で挫折してしまう人が多いと思われる。
[表] 予防医療を阻む壁と技術による解決策
[表] 予防医療を阻む壁と技術による解決策
出所:三菱総合研究所

海外におけるデジタル技術の先進事例

海外では、壁を越えてより効果を高めるためのデジタル技術革新も進み始めている。

例えば、日本と同様に高齢化が進んでいる英国では、デジタル予防医療の先駆けとなる先進的な事例が登場している。5,000人程度を対象に、グルコース(ブドウ糖)を連続的にモニタリングできるデバイス、健康管理に関するコーチングを受けられるアプリなどを活用した大規模な介入実験がNHS(National Health Service:国民保険サービス)によって行われている※1

この介入により、一人ひとりに合った食事・運動などの健康管理の継続、身体情報の常時モニタリングが可能となった。その結果、血糖値の低減が実現し、糖尿病の発症・重症化の予防に寄与している。こうした取り組みの背景には、血液検査などの費用やバイタルサインなどをモニタリングするデバイスが安価になって、広く普及しやすくなったことなどがあり、医療・健康データの電子化によってデータに基づいた介入が可能となったことが挙げられる。

予防医療を推進するデジタル技術

日本でも効果的な予防医療技術の拡大が望まれる。近年、予防医療の推進に向けて、前出の3つの壁それぞれに対応する技術革新が進み始めた。とりわけ高度デジタル化、ビッグデータの収集・分析に関する技術が重要視される。

第1の壁である、自身に適した目標や生活・運動の取り組みを設定するには、自身の健康データをAIによって解析する技術が活用できる。AIはすでにさまざまな分野で応用されているが、予防医療においては、運動・食事などの生活習慣のデータ、体重・血圧・血糖値といった健康データとAIを組み合わせることによって、達成可能な目標を立てることができるようになるだろう。

第2の壁である、健康管理・運動などを仲間と一緒に取り組むことについては、ヘッドマウントディスプレイなどを用いたVR技術が活用できる。この技術によって、従来対面で行っていた運動・トレーニングを、場所を選ばずに、あたかも仲間と同じ空間で行っているような臨場感・連帯感をもたせることを可能とする。

最後の第3の壁については、行動変容の効果を実感するために、非侵襲で(身体に負担を与えずに)身体の状態を測定するウエアラブルデバイスなどのIoT技術が活用できる。医療機関に通院して検査しなければ把握できなかった情報が、自宅で連続的にモニタリングできるため、今までよりも場所を選ばず連続して詳細に自身の状態を把握することが可能となる。


これら技術の活用によって個別化された目標・取り組み方法を設定し、デジタル・コミュニケーションによって仲間とつながり、簡便・迅速に予防効果が可視化できる、新しい行動変容の姿が見えてきた。技術をはじめとする新たなイノベーションの進展と社会実装により、予防医療を無理なく意欲的に継続できる日が来るだろう。

※1:2016年から、2型糖尿病の発症リスクが高い人を対象とした糖尿病予防プログラム(NHS DPP)が開始されており、当該プログラムの一環としての実験。
出所:“NHS Diabetes Prevention Programme − digital stream”NHS(国民保険サービス)。

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