マンスリーレビュー

2021年10月号特集3ヘルスケア経済・社会・技術

予防医療に求められる社会的バックアップ

2021.10.1

経営イノベーション本部峰岡 寿弥

ヘルスケア

POINT

  • 予防医療の普及には個人の努力だけでなく社会的な後押しが不可欠。
  • 企業と自治体の取り組み拡充に期待。研究者やボランティアとの連携事例も。
  • 成果を出す取り組みに共通するポイントを意識したい。

予防医療普及を後押しするために

持続可能な健康長寿社会では、予防医療の社会浸透は欠かせない。しかし、仮に個別技術の開発・適用が進んでも、社会的な後押しは不可欠といえる。なぜならば、健康意識や所得の違いなどにより、予防効果が最大化されず、社会全体が受ける恩恵が限定されるためである。

所属するコミュニティの特性によっても、健康を取り巻く環境、予防医療に必要な技術、施策は変わる。健康活動の契機となり、取り組みやすい環境を整備するための支援はさらに重要になる。

先進的企業・自治体が予防医療を変える

健康活動の環境を整備する役割を担うプレーヤーとして注目されるのが企業と自治体である。

①企業:従業員の健康づくりを支援

従業員の健康づくりを「投資」と捉え、経営戦略の一部に位置付ける「健康経営」が注目されている。メンタルヘルス不調、アレルギー、生活習慣病などは業務の能率の低下を招くと言われており、企業も従業員の健康づくりを重要な経営課題として捉え始めている。

健康活動の推進においては、従業員の健診データやレセプト(診療報酬明細書)データに基づく施策づくりが重要となる。製造業大手の花王グループでは、健康活動にかかるデータ項目を標準化した後に一元管理。多様な切り口で比較分析を可能とした。健保組合と経営層はもちろんだが、産業医、看護職、従業員代表も連携し、全社的かつ包括的な取り組みにより円滑な支援体制を構築している。

イベント参加への動機付けも意識している。参加した社員が健康グッズと交換可能な「健康マイル」を付与。各事業所が相互に刺激を受けるよう、参加率や成果の「見える化」にも注力している。

これらの取り組みは、従業員の生活習慣や疾病所見改善などの成果を出している。内臓脂肪測定イベントの結果を見ると、2014年から2015年までの間に、内臓脂肪面積の平均は6.0%減少し、BMI25Kg/㎡以上の人の割合は1.8%減少している。最近では、自治体とも連携し、従業員の退職後の健康づくりにも力を入れている。

②自治体:高齢者の健康リスクをサロンで低減

介護保険法の改正、高齢化社会の進展などを受けて、各自治体においては予防への取り組み意識が高まり始めた。

自治体による後押しの成果事例として愛知県武豊町の「憩いのサロン」がある。本取り組みは、多くの人が参加しやすい環境を整えるというコンセプトに基づく。各地で参加者や地域の特性に合わせ多様なイベントが実施されている。健康体操に限らず、手芸や将棋、茶話会、季節のイベントなど楽しく多彩な内容になっている。

また、研究者やボランティアなどさまざまな組織が計画・実施に関与。多拠点展開、企画運営、効果検証などにおいて当初から多様な連携が意識されており、効果検証プロセスもプログラムに組み込まれている。認知症リスクが3割程度抑制されるなど大きな成果も上がっている※1

取り組むべき4つのポイント

今後取り組むべきポイントは4つある(表)。
[表] 予防医療の普及に向けて今後取り組むべき4つのポイント
[表] 予防医療の普及に向けて今後取り組むべき4つのポイント
出所:三菱総合研究所
第1は「コミュニティ特性に合わせた施策展開」である。所属するコミュニティの特性に応じて各人の健康状態や興味が変わることがある※2。均質で画一的な対応ではなく、各コミュニティそれぞれの特性に合わせた施策を打ち出す必要がある。

第2は「健康活動参画のための動機付け」だ。「健康」を単に促すだけでは人は動かない。「楽しさ」「競争意識の刺激」「経済的メリット(マイルやポイントの付与)」などの動機付けが重要となる。

第3は「多部門連携によるサポート」である。企業の事例では、企業、健保、産業医、看護職、従業員代表の連携を、自治体の事例では行政、研究者、ボランティアの連携があったことを示した。「健康活動」に求められる多様な機能・役割を、1つの組織が担うことは難しい。複数の組織が連携し、それぞれの知見やノウハウを活かせる体制を構築することが不可欠であろう。

そして第4が「データに基づく評価・検証プロセス」である。例えば、花王グループでは5年ごとの中期計画で目標を定め、健診・問診・医療費の状況を毎年分析。都度進捗状況を確認し、次の施策を検討するというサイクルが回っている。施策の成果を正しく理解するため、あるいは施策をブラッシュアップするためにも、このポイントは重視されよう。

また、本号の特集2で示したようなAI、VR、IoT技術を活用することで取り組みの高度化につながる。さらには、企業・健保組合と自治体の連携によって、社会全体で個人の健康を支え続ける社会を実現することが切望される。

※1:サロン参加群は8カ月後の主観的健康観の改善が非参加群に比べ2.5倍多く、5年間の要介護認定率も非参加者群の約半分であった。
出所:近藤克則『健康格差社会への処方箋』(医学書院、2017年1月30日発行)。

※2:花王グループの事例では事業所ごとに、武豊町の事例では拠点ごとに施策を違えている。

バックナンバー

関連するナレッジ・コラム

もっと見る
閉じる