マンスリーレビュー

2019年11月号トピックス5経済・社会・技術

汎用AI実現の難しさと捉え直される人間の価値

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2019.11.1

未来構想センター武田康宏

経済・社会・技術

POINT

  • 汎用AIは既存AIと技術レベルが格段に異なり、実現はまだ遠い。
  • 実現には、各技術融合・統合の進展による新アルゴリズムの開発が必要。
  • 汎用AI時代にこそ人間固有の価値を追い、「技術賢使」の生き方を。
シンギュラリティ(技術的特異点)※1を実現するとの議論も各国で見られる、「汎用AI」。既存のAIは人間の組んだプログラムに従い、人間が設定した特定の問題しか解くことができないが、汎用AIは自律的に学習し、人間の知能に匹敵あるいは上回る精度で、答えが出せなかった多種多様なタスクへの解答・意思決定を可能にする。しかし、既存AIの延長線上にはない異次元の技術レベルを要することから、近い未来での実現は相当に難しいことを、まず理解する必要があるだろう。

現状では、国内外で企業・NPOを中心に研究開発が行われており、さまざまな方式(図)で実現を目指しているものの、課題は多い。例えば技術面として、人間の意思決定プロセス、意識、感情、記憶に関するモデリングの解釈が定まっていない。たとえ深層学習、強化学習に代表される急速なAI技術進展があっても、個々のアルゴリズムの延長では実現に向けたアプローチも示せない。汎用AI実現に向けては、特定の方式を超えて、エンジニアリング・神経科学、認知科学に関わる各技術を融合・統合しつつ、全く新しいアルゴリズムを開発することが求められよう。

AIの社会実装が進む現在は、未来に実現される「人間の知能の拡張・代替」を歴史上初めて体験する転換点ともいえる。これを機に、汎用AIには何が実現可能で、人間にしか生み出せない価値とは何かなど、「知能」や「人間」のあり方を問い直してはどうか。その際、自らの意思と創造性をもってAIを賢く使う「技術賢使」を提案したい。

今後、AIには汎用性を高めた新技術が次々と実装されることが予想される。研究開発の過程で、思いもよらない革新的な技術や手法を生み出す可能性もある。先端技術の動向を追っていくことの必要性・重要性はますます欠かせないものになっていくに違いない。AIに使われないためには技術背景・限界を理解する必要がある。このことは、汎用AIに限らず、量子コンピュータによる創薬、ロボティクスによる人間拡張、遺伝子工学による寿命延伸など、あらゆる先端技術の社会実装にも通じるだろう。

※1:米国の未来学者のレイ・カーツワイルが提唱した、「AIが人間の知能を超える転換点(技術的特異点)が訪れる」とする未来学上の概念。

[図]汎用AIを実現する方式