マンスリーレビュー

2019年11月号特集経済・社会・研究開発

未来に選ばれる会社

個人が伸び伸びと成長し多様な能力を発揮

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2019.11.1
経済・社会・研究開発

POINT

  • ソサエティ5.0時代を生き抜く、想像力・創造力の高い人材確保が必須。
  • 企業が求める優れた人材は多様な成長と能力発揮の機会を期待。
  • 多彩な人材を結集し、能力を発揮させ企業の成長・成果を社会にも還元。

1.企業が選ばれる時代

ソサエティ5.0の超スマート社会では、AI・ロボット・IoTなどのデジタル技術が大きな役割を果たす。そんな時代を企業が勝ち抜くには、AIやビッグデータを駆使し、AIにはできない想像力・創造力を発揮してさまざまな課題に取り組む優れた知的労働者(トップ人材)を確保することが不可欠である。そうした中、国内では前例のないスピードで働き手の数が減少し、グローバルにはトップ人材を巡る獲得競争が激しさの一途をたどる。量・質両面で人材難の時代が続く。

一方、若い世代の意識をみると、入社から定年までを一社で勤め上げる「終身雇用」への志向は急速に薄れつつある。上位大学の2019年卒業の就活生を対象とした意識調査※1によれば、会社選びで重視する条件として、「年収」の55.1%に対し、得ることのできる「スキル・経験」は69.2%に及ぶ(図1)。転職を前提としたキャリアパスを想定している学生も過半数を占めている。これらの学生は、大企業に就職し、キャリアパスを企業に委ねるのではなく、自分が理想とするキャリアパスに必要なスキル・経験を得られることを重視する。

つまり、トップ人材予備軍の志向は「就社」から「就業」にシフトしつつある。安定から機会・変化への関心が若手優秀層の間に広まる中で、日本企業はこうした人材から選ばれるための条件を考え直す必要がある。
[図1] 東京大学・京都大学の就活生が入社する企業を決める際に重視する要素(複数回答)

2.トップ人材確保に企業が求められる3要件

就職に対する学生・若手層の価値観や意識は大きく変わり、「年功序列」「終身雇用」といった要素への関心は薄まりつつある。特定の企業内での出世を主な動機とせず、転職によるキャリアアップを想定し、早期の成長や成功実感を得られる環境を求める層が増えているのだ。

企業が新入社員を選ぶのではなく、新たな考え方と潜在能力をもつ人材が企業を選別する時代、「未来に選ばれる会社」となるために求められる要件を3つに分類した。

①早期の成長機会と成功体験

高齢化社会、マルチステージ人生に向かい、年功序列、終身雇用の考え方が後退し、また伝統ある大企業の行き詰まりもみられる中で、若者の間では「会社の安定=個人の安定」という価値観は、支持されなくなりつつある。神戸大学大学院の服部泰宏准教授によれば、「会社の未来は分からないから、早期にスキルを身につけて自分の市場価値を高めたい」という動機が広がっているという。

年功序列の世界では、新卒入社から30〜40年を経て、部長、社長に上り詰めるのが成功者とされたが、今のトップ人材にとって重要なのは、早期のスキルアップとそれを支える制度や仕組みである。30〜40年後のことまで考えないのは、キャリアに対する考え方がスケールダウンしたのではなく、当面の自分自身の成長を重視するためである。速く短い時間軸でキャリアを考えているともいえる。

この要件に企業が応えるためには、若いうちからさまざまなスキルを身につけ、成功体験を得る機会を提供することが必要になる。成功を実感するには、その仕事が「自らの仕事である」という意識(オーナーシップ)がポイントだ。例えば、社内ベンチャー制度で若手の優れたアイデアに金銭的・人的サポートを提供し、裁量を与えるなど、「当事者」として成功を実感できる機会を提供することが有効である。

②多様な働き方とチャレンジ機会

早期の成功体験を得るためには、その機会を制限しないこと、つまり多様な働き方やチャレンジ機会を認めることも重要だ。若手の間には、自分がやりたいことを積極的に発言し、自らリスクを取る人材も増えつつある。

最近では、「副業」や「レンタル移籍」など多様な働き方を積極的に奨励する企業が増えている。自発的な「副業」により社外での多様な体験・成長の機会を与えたり、ベンチャー企業への出向など「レンタル移籍」の仕組みを使って、プロジェクト立ち上げの実践経験を積ませる。トップ人材の育成・成長機会、ロールモデルを自社内だけで完結することには限界があり、業種、チームのサイズ、スピード感など多様な執務環境を経験する機会を弾力的に提供する効果がある。

変わったところでは、ワークライフバランスをとりつつ新たなスキルを身につけるために、都市部の社員に地方での期間限定リモートワークをさせる「逆参勤交代」なども有効であろう。このように多様な働き方を実現しながら、伸び伸びと自らのスキルアップを実感できる制度の採用も必要となる。

③社会課題解決

活躍の期待されるトップ人材の多くはいわゆる「ミレニアル世代」に属する。この世代は、世界的にも上の世代とはガラッと変わった価値観、生活パターンをもつといわれる。その一つが、自己実現の目的として、金銭的成功に加えて、コミュニティー・世界への貢献など「利他」を重視する傾向である。

今、世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)の視点が重視され、企業経営においても「社会課題の解決をビジョンとして語る」動きが急速に広がっていることは、こうした大きな時代の変化の一側面でもある。ESG、社会課題解決へ取り組む姿勢は、投資家を含む幅広いステークホルダーの理解と支持を得るのに必須であると同時に、ミレニアル世代の優秀人材を迎えるための重要な要素でもある。そうした人材を育て、思う存分活躍させる企業が、事業と社会貢献の両面で価値を高め、「未来に選ばれる会社」となる。

3.トップ人材の能力を最大化させる組織

①メンバーシップ型とジョブ型のよさを活かす

トップ人材を獲得し潜在能力を発揮して活躍させる仕組みづくりに取り組む際、従来の雇用慣行の見直しは不可欠となる。慶應義塾大学大学院の鶴光太郎教授によれば、日本型雇用の最大の特徴は「無限定正社員システム」、あるいは「メンバーシップ型雇用」だとされる。すなわち、正社員に「職務、勤務地、労働時間を限定せず会社が自由に決められる」無限定性を求めてきた。このシステムは、特定のスキルをもたない若年層を、ジョブローテーションを経ながら年月をかけて育成するには有効な仕組みではある。しかし、社会環境の変化に伴って、弊害も出始めている。

日本的なメンバーシップ型雇用と対照的なのが、欧米型の「ジョブ型雇用」である。ジョブ型雇用では、個々人のキャリアプランやライフスタイルに合わせて自主的に職務を選びやすい。多様な人材を受け入れ、より多くのトップ人材の採用を促す駆動力となる。ただし、ジョブ型雇用では職務記述書(ジョブディスクリプション)で職務内容と責任範囲を明確に定義するため、革新的なイノベーションが生まれにくい。スキルをもたない若年層の失業率が高まるというデメリットも指摘されている。

日本人のよさと弱みを踏まえると、メンバーシップ型とジョブ型の利点を兼ね備えたプロフェッショナル型組織こそが、日本企業の実態に即した人材マネジメントを実現するといえるだろう。

②プロデューサーとプロメンター

トップ人材を確保した後は、一人ひとりの動機・関心事と能力・適性に基づき、最大限の成長と活躍の機会を提供することが、未来の会社には求められる。その根本となる考え方は、人材をスキルとキャリアを掛け合わせた現状で評価するのではなく、将来への志望や潜在能力も含めた人間全体として向き合う姿勢である。

これをサポートするために、「プロデューサー」と「プロメンター※2」という二つの機能・組織を形成することを提案したい(図2)。一人ひとりの能力を最大限発揮することを促すと同時に、集合体(会社)として価値創造の最大化を図るものである。

個の構成メンバーは、適性に合わせて「プロフェッショナル」として育成する。一人ひとりはプロフェッショナル性を核にして自律的に職務を果たし、その職能は組織内で共有される。固定的な部署に縛られず、必要に応じて他のプロフェッショナル(社外人材も含む)と連携・協力してプロジェクトを結成する—そんな組織のあり方が、未来に選ばれる会社には求められる。

プロデューサーは「個人が縦横無尽につながるネットワーク」を制御し、個人がそれぞれのスキルや能力を発揮し、目的に向かって多様な個の力を束ねて事業価値を創造する役割を担う。一方、プロメンターは個人の現在の能力やスキル、性格などを分析し、プロフェッショナルとしてのスキルを高める役割を担う。プロデューサー、プロメンターが連携して、個々を育て、能力を最大限発揮させる。

従来、これらの役割は「ミドル(中間管理職)」が担ってきた。そのタスクを要素に分解し、事業と人材育成に特化した新たなジョブを定義することにより、「ミドル」も新たなプロフェッショナルとしてスキルを磨く機会が増え、生まれ変わることができる。HRテクノロジーを活用すれば、社員の能力や志向性の分析の高度化、社員と業務とのマッチング精度の向上なども期待できる。

さらに、育成した個々のプロフェッショナルが、その能力を社外でも発揮する仕組みを整える必要がある。一つの企業だけで個人のスキルを抱え込まず、育成したスキルを他の組織とも連携・活用することで、世界の課題解決に貢献する可能性も生まれる。社員の能力を社会に還元する会社こそ、「未来に選ばれる会社」であろう。

※1:就活サイトのワンキャリアの調査による

※2:企業に所属する一人ひとりの能力開発を専門に行う役割を担う職務。個人の能力、スキル、性格、ライフプランを分析し、企業内にとどまらず、外部で通用する尺度で評価を行う。その上で、個人個人に合致した、スキルを最大限に高める人材育成を推進する役割を担う。

[図2] プロデューサーとプロメンター

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