マンスリーレビュー

2019年11月号トピックス3テクノロジー

新たなフェーズに入った宇宙ビジネス

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2019.11.1

科学・安全事業本部内田 敦

テクノロジー

POINT

  • 宇宙ビジネスの大半が実証のハードルを越えて事業化のフェーズへ。
  • データ利用に続き、打ち上げサービスや宇宙旅行も事業化が視野に。
  • 企業は多様な宇宙ビジネスと自社との関連性を見いだして参入検討を。
宇宙に関するニュースを目にする機会が増えている。各国政府の専売特許の感があった宇宙開発の領域で、スタートアップが相次ぎ誕生し、民間からの大型資金調達に成功している。トヨタ自動車が宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国際宇宙探査ミッションへの挑戦に合意したほか、米Amazon.comがロケット開発や衛星利用のインターネット接続サービスに取り組むなど、大手企業の参入も目立つ。

宇宙は本当にビジネスになるのだろうか。従来はコンセプト先行の色彩が濃かったものの、最近ではPoC※1や実証のハードルを越えて事業化にさしかかる事例が増えてきている。新たなフェーズに入ったといえるだろう。

ただし、宇宙ビジネスにはロケットによる打ち上げサービスや衛星観測・データ提供、月・惑星資源開発といった多様な分野があり、分野ごとに進捗(しんちょく)度が異なる(図)。人工衛星製造に次いで軌道に乗っているのは、衛星からのデータを各種の用途に利用する分野である。利用可能な衛星データの増加、演算能力の向上、機械学習をはじめとする計算手法の革新などにより、従来とは異なる高付加価値の情報を生み出して新たな顧客層を開拓している。小売各社の業績を分析する投資情報として活用している例もある※2。巨額の初期投資や宇宙空間での実証が不要で参入障壁が低いことも、こうしたデータ利用事業の追い風となっている。

一方、ロケットによる打ち上げサービスや宇宙旅行などはようやくPoCや実証を乗り越え、事業化へと突入しつつある段階である。こうした分野についても政府がリスクマネーの供給※3や宇宙実証機会の増加などを通じて障壁を下げ、次の段階に移行するための施策を準備しており、進展が期待できる。

では、企業はどうすればよいだろうか。宇宙旅行のように「宇宙を」使うケースや地球で開発した宇宙専用素材を「宇宙で」使うケースなど、ビジネスの範囲は多様かつ幅広くなっており、各企業は自社の事業との間で何らかの関連を見いだせるはずである。新規事業の開拓を考える際、宇宙関連も選択肢に加えてみてはいかがだろうか。

※1:Proof of Concept。新しい概念や理論、アイデアが実現可能であることを確認するための簡易的な試行、実証実験。

※2:米Bloombergが、米Orbital Insightのデータに基づく経済指標を市場に提供している。小売店の駐車場を衛星から定点観測して来店状況を分析する。

※3:内閣府、総務省などが2018年3月公表した「宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージ」では、その後5年間に官民合わせて「宇宙ビジネス向けに約1,000億円のリスクマネー供給を可能とする」としている。

[図]宇宙ビジネスの分野別進捗と代表的な企業(2019年10月時点)