マンスリーレビュー

2019年1月号

MRIマンスリーレビュー2019年1月号

2019年1月号 巻頭言「超大学をイノベーションの拠点に」

理事長 小宮山 宏
イノベーションが日本では進まない。すさまじいスピードで変化する世界にあって不安を覚える。しかしイノベーション先進社会が必ずしもよいわけではない。例えば、格差問題などは解決されないからだ。私は、日本におけるイノベーションの内容を峻別すべきだという思いを強めている。課題先進国なのだから、他国はさておき自らの課題解決に集中したらどうだろう。

少子化、働き方、過疎、廃棄物……日本の課題にきりはないが、それらは相互に関係している。煎じ詰めれば、物質の側でエネルギーと資源の自給化、人間の側で人生100年時代の生き方が根源だろう。他国はともあれ、国内でやれることはやりたいではないか。

イノベーションを先導するのは国だというのが大方の思いだろう。しかし、まったく進まないという現実がある。最大の障害はむしろ、お上が決めてくれるという日本人の意識にあるのではないか。何かを変えようとすれば、だれかの損につながる。その人は強烈に反対する。その反対を押し切って進むことをしないのがポピュリズムだから、政府主導では無理なのだ。

イノベーションの拠点として超大学を提案する。成功例はすでにいくつもある。弘前大学の健康ビッグデータは附属病院を中心に、市民、学生、他大学、企業、県、医師会などの参加を得て世界でも稀な進展を遂げている。すでに11の企業が寄付講座を設置しているのが成果の証だ。また種子島に大学はないが、19の大学から研究者や学生が参加して島のプラチナ社会化を目指す。それまで決して友好的とは言えなかった一市二町が、協力して「プラチナ大賞」を受賞したこと自体をイノベーションといってもよいだろう。

イノベーションに不可欠な、知識、信頼、長期視野、脱利害、若者、多様性、これらは大学の特長だろう。欠けているのは経営、そして勇気か。社会がそこを加勢する。超大学にイノベーションの先導を託したい。
もっと見る
閉じる

バックナンバー