世界経済:顕在化した三つの潮流
2018年は、世界経済を中長期的に左右しかねない三つの潮流が顕在化した年となった。第1は米中の覇権争いである。古くはアテネとスパルタの争いにさかのぼるが、覇権をめぐって新旧大国は衝突を繰り返してきた。2018年は世界の覇権をめぐる米中対立の幕開けの年と位置付けられるだろう。第2は民主主義・資本主義のほころびである。格差拡大など既存政治に対する不満の蓄積が、ポピュリズム的政策への支持拡大と政治の内向き化に拍車をかけた。新興国の一部では権威主義的な統制経済体制で急成長を遂げる中国を範とする動きもみられる。第3はデータをめぐる主導権争いである。競争力の源泉としてデータの価値が高まる一方で、IoT機器を通じたデータ流出、フェイクニュースによる世論操作など新たなリスクも顕在化した。国家主導で国民の情報を吸い上げる中国に対し、欧米ではGDPR※1の施行やデジタルプラットフォーマーへの規制強化など、国外・地域外へのデータ流出を防ぐ動きが本格化した。
これら三つの潮流が顕在化する中で、先行きに対する不確実性の高まりが際立った1年であったと総括できよう。
これら三つの潮流が顕在化する中で、先行きに対する不確実性の高まりが際立った1年であったと総括できよう。
米中対立:貿易にとどまらない対立軸
不確実性の最大の要因は、年明け以降に深刻化した米中貿易摩擦にある。7月から9月にかけて米中間の貿易総額の過半に高率関税をかけあう事態にエスカレートし、1990年代以降は低下傾向にあった世界の平均関税率が上昇に転じた。
さらに、ペンス米副大統領が10月に行った対中政策に関する講演は、米中間の対立軸が貿易だけにとどまらないことを内外に印象づけた。中国は不当な手段で技術力、軍事力、新興国に対する支配力を高めており、国際秩序そのものを脅かしているという米国側の強い警戒感が示された。対する中国は、3月の全国人民代表大会において習国家主席の任期を撤廃し権力集中を加速させた。人口減少が本格化する2035年までにイノベーション力強化や中所得層拡大など「社会主義の現代化」を進めておきたい中国側の狙いがうかがえる。
さらに、ペンス米副大統領が10月に行った対中政策に関する講演は、米中間の対立軸が貿易だけにとどまらないことを内外に印象づけた。中国は不当な手段で技術力、軍事力、新興国に対する支配力を高めており、国際秩序そのものを脅かしているという米国側の強い警戒感が示された。対する中国は、3月の全国人民代表大会において習国家主席の任期を撤廃し権力集中を加速させた。人口減少が本格化する2035年までにイノベーション力強化や中所得層拡大など「社会主義の現代化」を進めておきたい中国側の狙いがうかがえる。
リーマンショックから10年:経済の立ち直りと負の遺産
2018年はリーマンショックから10年の節目の年でもあった。大規模な金融緩和のもとで先進国のマクロ経済が回復した一方で、格差拡大など社会には大きな爪痕が残る。南欧や米国ではリーマンショック時の就業機会の喪失によって失業が長期化し、働き盛り世代の男性の就業率がいまだにリーマンショック前の水準を回復できていない。社会の格差が許容範囲を超えると、既存の政府や議会に代わる新しい政治を求めるうねりへと変化し、ポピュリズム的政策が支持される温床にもなる。既存政治への反発は米トランプ政権誕生の原動力となり米国の保護主義化を招いた。一方、中国は国家資本主義的な統制経済体制を強化。リーマンショックの負の遺産と米中の覇権争いは一見無関係にみえるが、底流ではつながっている可能性がある。
選挙の年:政治を揺るがす社会の分断
2018年は政治イベントも相次いだ。米国中間選挙は下院では民主党が過半数を奪還したものの、上院では共和党が過半数を確保。与党に厳しい結果となりがちな中間選挙としては共和党も善戦した。下院選の投票結果を細かくみると、白人と非白人、都市と地方などで投票先の政党がくっきりと分かれ、米国社会の分断の深刻さを裏付ける結果となった。
欧州では、イタリアではポピュリズム的な政策を掲げる五つ星運動を含む連立政権が誕生したほか、ドイツでも地方議会選挙で極右政党AfD※2が議席を拡大した。欧州でも、難民問題への反発などをめぐる社会の分断・不安が続く。
欧州では、イタリアではポピュリズム的な政策を掲げる五つ星運動を含む連立政権が誕生したほか、ドイツでも地方議会選挙で極右政党AfD※2が議席を拡大した。欧州でも、難民問題への反発などをめぐる社会の分断・不安が続く。
日本経済:数々の記録更新も自然災害が多発
2018年の日本経済は、指標の上では数々の記録を更新した。景気回復局面が12月まで持続すれば戦後最長の景気回復期間(73カ月)に並ぶ。有効求人倍率は9月に44年8カ月ぶりの高水準を記録した。景気回復は地方経済にも波及している。訪日外国人数は2018年に3千万人を突破、最低賃金も全都道府県で初めて750円を超えた。その一方で、多くの自然災害にも見舞われた。平均気温は中長期的に上昇基調にあり、記録的豪雨を「異常」気象といえない時代になりつつある。