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2019年1月号トピックス3エネルギー

電力・ガスビジネスは価格より価値を競う時代へ

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2019.1.1

環境・エネルギー事業本部実島 哲也

エネルギー

POINT

  • 電力・ガス小売の料金値下げによる顧客獲得は限界に。
  • 余剰電力の優遇買取が終了する太陽光発電世帯が出現。
  • 今後は異業種連携を含めたサービス開発力や差別化が顧客獲得の鍵に。  
2016年4月に電力、2017年4月にガスの小売り自由化がそれぞれ始まり、新規参入競争が活性化している。新規参入企業のほとんどはこれまで、電力・ガス料金の低減に重きをおいて顧客獲得を進めてきた。しかし、当社独自の「生活者市場予測システム(mif)※1」によれば、単に料金の安さを理由に契約先のエネルギー事業者を切り替える動きは過去3年で鈍化の傾向が見られ、消費者が料金自体の安さを最優先する姿勢は一巡しつつあるようだ。小売事業者にとって値下げによる顧客獲得には限界があり、収益力の低下も招く。いずれは方針転換が必要になるだろう。

こうした中、2019年11月からは、余剰電力を優遇買取する制度の適用が終了となる太陽光発電世帯が2019年だけで約50万件、以降毎年20万~30万件の規模で出現する。この状況は小売事業者に新たな商機となり得る。例えば、太陽光発電世帯に蓄電池システムを導入し、その運用をAIによって最適化するサービス※2が出てきている。具体的には、優遇買取制度の適用時は売電を最大限にする一方、終了後は逆に自前で太陽光発電した電力を最大限自家消費して外部からの電力購入を極力抑制し、長期的に電気代を節約するものだ。

また、各地で相次ぐ災害への関心の高まりを背景に、停電になった場合でも当面の消費電力を賄える家庭用蓄電池システムが出現している※3。ガスの使用状況を自動で感知して、異常と認められた場合は自宅に警備員が駆けつける見守りサービス※4や、活動量計を使って歩いた分だけ電気代を安くするケース※5もある。

電力・ガス小売市場は、単にエネルギー価格自体を競う従来型から、その他サービスとの組み合わせを通じた新たな価値の提供によって、顧客を獲得する方向へとシフトしていくだろう。小売事業者からすれば、新サービスの開発力や、顧客への訴求力の向上が重要になってくる。そのためには自社のリソースにこだわることなく、異業種やスタートアップなどとの協業も選択肢に入れる必要があろう(図)。自社が抱えている顧客基盤の特性を見つめ直した上でサービスの差別化を進めることも有効ではないだろうか。

※1:https://mif.mri.co.jp/

※2:2011年設立の企業Looopが展開する「Looopでんち」。

※3:伊藤忠商事による家庭用リチウムイオン蓄電システム「Smart Star L」。

※4:東京ガスによる「くらし見守りサービス」のオプションとして、セコムが「救急サポート」を提供。

※5:新電力会社イーレックスがタニタなどと共同開発したサービス「あるく・おトク・でんき」。

[図]「価格」の訴求から、「トータルでの価値」の提供へ