マンスリーレビュー

2020年11月号

MRIマンスリーレビュー2020年11月号

巻頭言|デジタル化なくしてAI化なし

研究理事 比屋根 一雄
日本では2016年ごろからAIブームが始まった。「アルファ碁」が世界トップ棋士を破り世の中に衝撃を与えた。実用的なAIシステムが登場し始めた2017年は「AI元年」と呼ばれた。当初、ネットサービスが中心であったAI活用も、金融、製造、ヘルスケアなど、全産業に拡大している。

しかし、企業活動や市民生活に広くAIが活用されているとは言い難い。あなたは今日一日過ごす間に何回AIを使っただろうか。耳にするほどには、使っていないはずである。それはなぜか。理由は二つ。企業のデジタル化不足と、学習済みAI製品がいまだ登場していないからである。

AIは膨大なビッグデータから学習する。データがなければ賢くなれない。学習すべきデータが圧倒的に不足しているから、AIが活用できないのである。書面とはんこを前提とする業務、記録が残らない会議、属人的な業務の進め方、データが簡単に取り出せないシステムなどが大きな障害となっている。

AI活用以前に必要なのが、企業活動のデジタル化である。業務をオンライン化するのが第一歩。リモートワークで業務が完遂できれば、その行動は全てデータ化できる。データが蓄積されて、初めてAIが学習できるようになる。デジタル化なくしてAI化なしである。

ビッグデータ学習済みのAI製品・サービスも登場しつつある。分かりやすい例は機械翻訳や自動運転である。ほかにも、ロボットハンドや対話型AI、スマートグラスなどがある。先行製品はあるものの、真に実用化された普及品はいまだないのが実情だ。今後5〜10年以内に、実用レベルのAI製品・サービスの登場を予想する。誰もがこれらを使う時代になると、あらゆる業界・企業でビジネス変革が不可避となる。

いま企業が取り組むべきことは、自社業務のデジタル化である。加えて、近い将来に普及するAI製品・サービスの登場に備えて、自社のビジネス変革すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)を始めることである。
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