マンスリーレビュー

2017年3月号

MRIマンスリーレビュー2017年3月号

巻頭言|産学官連携のグローバル化とは

常務研究理事 大石 善啓
3年前に出張でミュンヘンを訪れた。2日間の滞在を終え、旧知のミュンヘン工科大学の教授が運転する車で、市北部の郊外にある空港に向かった。その途中のガルヒング地区にミュンヘン工科大学の新しいキャンパスが広がっており、教授が案内してくれた。そこには、バイエルン州を世界有数のリサーチ拠点にするため、ミュンヘン工科大学、ミュンヘン大学をはじめとする理工学分野の最新の研究施設が集積されていた。

驚いたのは、キャンパス内にゼネラル・エレクトリック(GE)の研究拠点であるGEグローバル・リサーチ・ヨーロッパが立地しており、ドイツの大学と密接にオープンイノベーションを推進していたことであった。さらにそこには、マックスプランク研究所、フラウンホーファー研究機構も拠点を設けており、まさしく産学官一体でカーボン複合材などの研究開発を進めているとのことであった。そして、ここでの研究成果は、GEの成長戦略の柱であるエコマジネーションやヘルシーマジネーションの原動力になっていた。

これを日本で例えるならば、東大、東工大、理研、産総研などの学官のトップ研究機関と海外企業が同じ敷地内に集まり、産学官連携に邁進していることになる。ドイツには、シーメンスはじめGEと熾烈な競争を繰り広げている国内企業がありながら、このような国や経済圏のボーダーを超えた連携や協業がどんどん進んでいる。あらためて「グローバル化とはこういうことなんだ」と大きなショックと感銘を受けた。

わが国でも産学官連携の拡大が重視され、数値目標が設定されている。一方で、日本企業は海外研究機関との連携に偏重しているのではという声も聞かれる。国内の産学官連携を進めることに異論はないが、グローバル化とともに競争と協創、オープンとクローズドの境界は変化し続ける。日本の企業、大学・研究機関にとって大事なのは、そのスピードについていけるかであると思う。
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