マンスリーレビュー

2017年3月号トピックス5経済・社会・技術エネルギー海外戦略・事業

中東の脱石油を日本のチャンスにつなげる

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2017.3.1

政策・経済研究センター猪瀬 淳也

経済・社会・技術

POINT

  • 原油安を機に中東諸国では「脱石油」の動きが再燃している。
  • 海外からの直接投資も増えるが新産業の育成には各国とも苦労している。
  • 「環境」「健康」分野での協業で中東の支援と利益獲得を両立できる。
原油安が続き、サウジアラビアを中心とする中東諸国の「脱原油」の動きが真剣味を増している。現状、オイルマネーを原資とした政府系ファンドによる外貨獲得と、製造業を中心とする海外からの直接投資の誘致が二つの柱だ。

これにともない、日本政府および日本企業がいまだなじみが薄い市場である中東との関わりを深め、収益を獲得するチャンスも拡大している。このチャンスを活かすために、日本は中東戦略をどう取るべきか、提案する。「環境」や「健康」をキーワードとする、中東国民の課題解決につながる産業について日本と中東政府が「協業」し、中東の長期的な成長を支援するというものだ。

海外からの直接投資が増えていると言いながら、サウジアラビアをはじめとする各国も新産業育成には苦労している。石油さえあれば何不自由なく生活できる国であるため、金銭的メリットのみでは労働者の勤労意欲も上がらない。そこで、環境や健康など、国民や労働者に身近なテーマからアプローチするのが有効だろう。サウジアラビアの大気汚染は今や中国よりも悪化しており、バーレーンやオマーンでは生活習慣病である糖尿病の死亡率が高い数値を示している。この分野であれば一帯一路構想のもと中東進出を急ぐ中国と比べても、日本は技術面実績面ともに優位だ。

それでも、日本企業自らが現地労働者をマネジメントする非効率は否めないだろう。この問題を解決するには中東国民による中東国民のマネジメントが有効だ。政府系ファンドからも出資を募り、彼らに「物言う株主」として機能してもらうのだ。ここでの日本企業の役割は技術提供や販路開拓、マーケティングなどである。

現実的には、政府系ファンドと合弁を組むことになると思われるが、日本企業単独で政府系ファンドにアプローチするのは難しい。そこで、日本政府が法制度整備なども含めた総合的な提案を中東政府に持ちかける。これにより、中東の自律的・持続的な産業育成を支援しつつ、中東の「脱石油」の動きを日本企業の収益獲得につなげることができるだろう。
[表]中東主要国での糖尿病および大気汚染の深刻度