マンスリーレビュー

2021年2月号

MRIマンスリーレビュー2021年2月号

巻頭言|豊かさと持続可能性

常務研究理事 大石 善啓
1970年わが国初の万国博覧会EXPO'70が「人類の進歩と調和」をテーマに大阪で開催された。当時中学1年生だった筆者は、何度も会場を訪れた。「月の石」「動く歩道」「リニアモーターカー」など、科学技術が切り拓くキラキラ輝く未来社会をワクワクしながら夢見たことを昨日のことのように思い出す。
 
その1970年に、三菱創業100周年事業の一つとして三菱総合研究所は誕生した。創立50周年を迎えた2020年に、次の50年の未来社会を描く記念研究「100億人・100歳時代に豊かで持続可能な社会」に全社を挙げて取り組んだ。ここでは、50年前、今、50年後の「豊かさ」と「持続可能性」を比較してみたい。

50年前は、欧米に追い付くことを目標に、3C(カラーテレビ、クーラー、自動車)に代表される物質的、経済的な豊かさを追い求めていた。物が充足した今は、体験や自分磨きなど、精神的な豊かさが重視されつつある。

50年後はどうだろうか。50周年記念研究では、「誰もが能力を発揮して活躍し、多様な活動やつながりの中で価値を共創、共有する」未来社会を描いた。自己実現から価値共創に至る連鎖の中で多様な豊かさが生まれ、個人が自由に選択する。個人の豊かさの総和が社会の豊かさを最大化する状態こそ、未来の豊かな社会と考える。

50年前の日本は大気や水質汚染などの公害問題に苦しんでいた。しかし、まだローカルな問題であり対症療法で改善し、自然の回復力で修復可能であった。50年後の今、持続可能性はグローバルな問題となり、地球の回復力は瀬戸際に来ている。持続可能性の成否は人類の存続を左右する。残された時間は限られている。50年後に100億人が地球の自然や恩恵を享受できるよう先進技術をフル活用して、自分事として見える化し、一人ひとりの意識改革、行動変容を急ぐ必要がある。

50周年記念研究では、「豊かさ」と「持続可能性」を実現するための具体的な方策を提案している。未来社会の実現に向けて共に一歩を踏み出そう。

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