マンスリーレビュー

2017年1月号

MRIマンスリーレビュー2017年1月号

巻頭言|日本が存在感を示す次の一手

理事長 小宮山 宏
昨年8月と9月に経済分野におけるベストセラーが相次いで発刊された。吉川洋氏の『人口と日本経済』、水野和夫氏の『株式会社の終焉』である。

吉川氏によれば、日本が高度経済成長していた1955年から1970年の間、年平均経済成長率は9.6%だったが、労働力人口の増加はわずか1.3%にすぎなかった。残りの成長は、労働生産性向上の結果、新しい物やサービスが次々と生まれ、その供給を自動化や機械化などが支えたことによる。イノベーションが高度経済成長のほとんどを担っており、今後の労働力人口の減少により経済が弱体化するわけではないとの認識である。

水野氏によれば、資本主義は中心と周辺から構成されるが、無限と考えられていた地理的・物的空間において、資本主義が利潤を上げる周辺はすでになくなりつつある。したがって、長期的には中世のように潜在成長率がゼロという前提での社会の構築が必要になる。「よりゆっくり、より近く、より寛容に」が社会の原理になると見通している。

私は、10月に『新ビジョン2050』を上梓し、もろもろの課題を克服して、現状の「飽和」から新しい段階の社会(プラチナ社会)へ向かうことを提案した。プラチナ産業の創造、すなわちイノベーションが不可欠であり、その萌芽はすでに見られることを示した。水野氏の「無限の空間の終焉」を物質の問題に置き換えれば、新ビジョン2050の「飽和」がキーワードである。

以上3冊の現状認識は酷似している。21世紀へ向けての答えは、吉川氏はイノベーション、水野氏は中世、すなわち「閉じた空間」への回帰、小宮山はプラチナ社会へ向かうことによる「創造的需要」である。

共通した認識のもと、相互に補完しながら21世紀に対する希望の道筋を見出す3冊、そのように私は読んだのである。
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