マンスリーレビュー

2017年1月号数字は語る経済・社会・技術

9年ぶり─上昇に転じた全国商業地地価

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2017.1.1

政策・経済研究センター酒井 博司

経済・社会・技術
9月に公表された2016年都道府県地価調査(基準地価)によれば、全国全用途および住宅地の地価はバブル崩壊後25年連続して前年比減となった。その中で、全国商業地の地価は、リーマン・ショック直後の2009年に前年比▲5.9%の大幅下落となった後、徐々に下落幅を縮小し、今回9年ぶりに微増ながらも上昇に転じた。

今回の商業地上昇の主役は三大都市圏(東京、大阪、名古屋:前年比2.9%増)に加え、地方4市(札幌、仙台、広島、福岡:同6.7%増)である。すそ野の広がりが見られることから、下落傾向には一定の歯止めがかかったと判断することができる。一方、地方4市を除くその他地方圏は同▲1.5%減と下落が持続した。ただし、その他地方圏においても、地価が底を打ち、上昇に転じた地域が出てきたことは注目される。

土地の魅力を反映する地価

地価は現在および将来にわたる土地の魅力を反映する。今回、3大都市圏と地方4市の商業地が上昇した背景として、交通インフラの整備や再開発の進展、外国人観光客の増加に対応した商業地の高度化などにより、土地の魅力が増した点が挙げられる。

また、下落が続くその他地方圏の中にも、地域の特性を活かした施策により地価を上向かせた例がある。静岡県駿東郡長泉町は充実した子育て支援策と健康関連産業誘致を組み合わせた街づくりが、人口増と出生率の上昇をもたらし、商業地は2009年以降、住宅地は2008年以降、前年比増を続けている。長野県松本市は「健康寿命延伸都市の創造」を掲げ、産学官連携のもとで「松本ヘルスバレー」の実現を推進し、地域活性化を図っている。その結果、商業地は下げ止まり、住宅地は6割の調査地点で上昇した。

各地域の魅力度向上が持続的地価上昇につながる

アベノミクス第2ステージでは、一億総活躍社会を通じた「強い経済」の実現が、新三本の矢の一つとして掲げられた。そのためには都心部だけでなく、地方部も幅広く含む活性化が求められる。的確な施策が地域の魅力増大に資することを示した長泉町や松本市のような事例が幅広い地域で増えていけば、「強い経済」は実現に向かい、地価上昇傾向は堅固なものとなる。