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2017年1月号トピックス2サステナビリティ

「100年の計」で低炭素・環境技術を磨く

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2017.1.1

環境・エネルギー事業本部山口 建一郎

サステナビリティ

POINT

  • パリ協定が目指す大幅な排出削減に世界全体がかじを切るかどうかは予断を許さない。
  • 今こそ環境技術を世界が協調して開発するための仕組みの確立が必要。
  • 先端的な環境技術をもつ日本が主導的な役割を果たす。
2015年に採択された気候変動対策に関するパリ協定は、二大排出国の米中の積極的な動きに世界が呼応するかたちで2016年11月に発効した。採択から1年足らずという異例のスピードである。

では直ちに各国が低排出路線を追求するかといえば、事はそれほど簡単ではない。パリ協定発効直後にモロッコで開催されたCOP22※1では、2020年以降に全世界が排出削減体制に移行することの引き換えとして、先進国がそれ以前に率先的行動をとることを、途上国が強く要求した。一方、アメリカではパリ協定からの脱退や気候変動関連の対外資金拠出の拒否を公約としたトランプ氏が大統領に選出された。先進国の一層の排出削減と支援が求められた矢先に、最大の先進国が気候変動対策を講じない可能性が生じてしまったのである。これを打破し、パリ協定の「温度上昇を2℃以内に抑える」という目標を達成するには、途上国対先進国の構図を超え、かつてないペースで低炭素・環境技術の開発や普及に、世界が協調していくことが求められる。

日本はパリ協定批准にはやや遅れたが、ハイブリッド車に代表される先端的な環境技術に加え、トップランナー制度のような継続的に効率改善を図る仕組みを作り上げている。この経験を活かして、技術開発面で主導的な役割を担えるのではないか。技術開発については各国の利害が衝突しにくく、自国だけが対策を講じないフリーライダーの問題も発生しにくいため、世界が協調する仕組みの早期確立が期待される。

日本には、エネルギーの高度な融通を実現する蓄電池やIoTなど、コスト以外で競争力をもつ次世代のキー技術も多く潜在する。また、パリ協定の唱える今世紀後半の実質的ゼロエミッションを達成するには、砂漠緑化やバイオマスCCS※2など、CO2を大気から積極的に除去する「マイナスエミッション」の技術も必要となろう。低排出・低炭素社会実現に加えて、食糧生産などの副次的な便益も視野に入れた最適な技術開発に向けた「100年の計」を描きたい。次代を担う層の育成も含め低炭素・環境技術を磨くことで、世界の議論と技術革新をリードする役割を担いたいものである。

※1:国連気候変動枠組条約第22回会合。

※2:バイオマスの燃焼・発電時に発生するCO2の回収・貯蔵。

[図]技術開発に関する国際的な協力体制のあり方