マンスリーレビュー

2017年1月号トピックス3ヘルスケア

民間の自由な発想を活かした地域包括ケアシステム

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2017.1.1

ヘルスケア・ウェルネス事業本部松下 知己

ヘルスケア

POINT

  • 日本の介護保険は世界的に見ても手厚いため、民間サービスが育ちにくかった。
  • 今後は社会保障給付費削減の必要性から、保険内サービスの範囲は縮小する見込み。
  • 民間の自由な発想をもとに、高齢者のかゆいところに手が届くサービスを。
介護保険制度の創設時に期待されていた民間市場の拡大は、保険外サービスについては期待外れな状況が続いている。その背景には、日本の介護保険制度が、比較的軽度でもサービスを利用でき、自己負担率も1割など、世界的に見ても手厚い制度となっている面がある。利用者は保険外サービスよりも保険内サービスを選択し、その結果、高齢者の生活全体を支える仕組みである地域包括ケアシステムでも公的保険への依存度が高くなっている。

一方、介護保険の給付費が9兆円を超え、社会保障財政が逼迫する中、軽度者が利用する一部のサービスを保険外に切り出すことや、所得に応じて自己負担率を2割に引き上げることなどの改正が行われ、今後も保険内サービスとして利用できる範囲は縮小する見込みである。また、保険内・外サービスを同時に提供する「混合介護」の解禁についても議論が活発化しており、再び保険外の民間サービスに期待する声が高まっている。

こうした動きのもと、民間の保険外サービス市場が広がるチャンスが生まれている。これまで保険内サービスでは認められなかったような、高齢者本人が使う部屋以外の掃除や家族の食事の準備、庭の掃除など、かゆいところに手が届き、毎日の高齢者の生活を包括的に支援するサービスにも期待が高まる。高齢者が健康なうちから生涯を過ごすシニア・コミュニティー(CCRC)の整備も進みつつある。さまざまな規制で縛られてきた従来のサービスの概念を脱し、介護を受ける立場に立った自由な発想でサービスを考える時期に来ているといえよう。

生体センサーを組み込んだベッドや映像解析技術を使った転倒防止システム※1、ウエアラブルセンサーを利用した健康管理・予防アプリ、AIを活用したケアプランの自動作成※2など、介護分野にもデジタルイノベーションの波が来ている。これらの技術を駆使して、高齢者のニーズを満たす新たなサービスを創造し、保険内・外サービスが補完し合えば、地域包括ケアシステム全体の質を高めていけるだろう。

※1:パナソニック株式会社。

※2:セントケア・ホールディング株式会社。

[図]今後の制度改正で保険外サービス市場のチャンスが広がる