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DIOコミュニティがもたらす消費の変化 第4回:企業への変化と取るべき対応

DIOコミュニティを追い風に

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2023.8.25

経営イノベーション本部宮川貴光

堺 竜哉

経営戦略とイノベーション
ここまで第1回から第3回のコラムで紹介した通り、DIOコミュニティ最大の特徴は、自分たちの課題を自分たちで解決するコミュニティであることだ。

一方、別の特徴として、企業に比べ利益確保の優先度が低いという点がある。これは、収益性・成長性が低く企業が対象としづらい課題を、DIOコミュニティが解決する可能性を示唆している。

最終回の第4回では、この特徴を起点とし、DIOコミュニティの台頭が既存企業にもたらす影響と企業が取るべき対応をみていきたい。

DIOコミュニティが企業にもたらす影響

DIOコミュニティの可能性——

DIOコミュニティは、「課題意識」「目指す方向性(ビジョン)」を共有する人々が集まり、自らその課題を解決する特徴があるため、コミュニティに参加する人々が共通的に有する、特定の深い課題に対応するモノ・サービスを生み出すことになるだろう。

ここでDIOコミュニティが着目した課題が、実際には多くの人々が抱える課題であった場合はどうだろうか。例えば、限られた人々が抱え収益性が低いと思われ、見過ごされてきたような課題が、実は多くの人に当てはまった場合だ。このような場合には、DIOコミュニティが生み出したモノ・サービスは多くの人々に受け入れられ、コミュニティは飛躍的に成長するだろう。一方、既存企業にとってはこれまで自社が獲得してきたマーケットを侵食される可能性がある。

第2回で取り上げた「山と道」は、この可能性を現実のものとした例だ。

強いこだわりを持つハイカーたちが製作・販売したウルトラライト(超軽量)のバックパックは、潜在的に同じニーズを持っていた多くの人々に受け入れられ、登山用のバックパックという、既存企業が対象としていたマーケットの一部に割って入った。

DIOコミュニティならではの価値提供——

この事例では、既存アウトドアブランドも同種の商品を販売し、新たに認知されたウルトラライトのバックパックの市場でも一定の売り上げを獲得している。

しかし、DIOコミュニティはあくまでも特定の課題を解決することが主目的で、収益獲得の優先順位は高くない。このため、既存企業がDIOコミュニティを完全に模倣、追随するのが難しいのも事実だ。実際に「山と道」は、ウルトラライトのバックパックに関して、パーツごとに素材やカラーリングのカスタマイズを可能とし、既存企業が収益性の観点で模倣困難な「自分たちが欲しい商品」を作っている。

既存企業から見れば、DIOコミュニティが個別のニーズに対応し収益性の観点で模倣困難なモノ・サービスを提供することにより、自社の顧客の一部を侵食される恐れがある。特にニッチ戦略を採用する企業にとってDIOコミュニティは、個別ニーズへの対応の観点で自社の優位性を脅かし、かつ収益性の制約なく安価に提供し得るため、大きな影響を及ぼす存在となる可能性があるだろう。

現時点では、DIOコミュニティが大きな生産設備や多数の店舗を抱えることなどは困難と考えられ、その活動は既存企業を完全に代替するものではない。しかしながら、DIOコミュニティが提供するモノ・サービスは、既存企業が解決できていない課題、ニーズを解決し、消費者にとって新たな選択肢の一つとなり得る。

企業がとるべき戦略

DIOコミュニティを追い風にする取り組み——

このように、市場に変化をもたらす可能性を持つDIOコミュニティの台頭に対して、既存企業は、差別化、連携、内部化といった戦略をとることが考えられる。

まず、こだわりを持つ顧客へ商品・サービスを提供するDIOコミュニティとは反対に、こだわりが薄いマスをターゲットとして、戦略の差別化を図ることが考えられる。あるいは技術や生産設備などの資産によって差別化を行うことも可能だろう。

続いて、DIOコミュニティと連携し、彼らが対応困難な領域を埋めるビジネスを行うことが考えられる。例えば、DIOコミュニティが企画した商品を生産するといったものだ。ニッチだが高付加価値な商品や、マスマーケットへの展開が期待できる商品であれば、大企業にとっても収益獲得の機会となり得る。この領域は「B2D(Business to DIO)」として確立する可能性がある。

最後に、自社とのシナジーが見込めるDIOコミュニティや自社の脅威になり得るコミュニティと早い段階から関係を構築し、自社に見合う収益が期待できるような場合は内部に取り込むといった方法も考えられる(図1)。
図1 DIOコミュニティに対して既存企業が取り得る3つの戦略
DIOコミュニティに対して既存企業が取り得る3つの戦略
出所:三菱総合研究所
ここまで見てきたように、足下では人々が自らの課題やニーズを自ら解決する「DIOコミュニティ」の台頭が進んでいる。

収益獲得を目指すコミュニティではないものの、当初は特定の人々のニーズだと考えていたものが、実は多くの人にあてはまるニーズだった場合、そのDIOコミュニティは大きく発展し得る。

こういったDIOコミュニティは、既存産業に地殻変動を起こし、市場にゲームチェンジをもたらすだろう。この動きに飲み込まれないための対策に加え、DIOコミュニティを追い風に変えて成長する取り組みが、既存企業には求められる。

著者紹介

  • 堺 竜哉

    経営イノベーション本部

    経験と専門知識を活かし、経営課題・事業課題の解決をご支援いたします。現状の課題を深く分析し、データ駆動と創造性を融合し、持続可能な解決策を提供します。

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