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経営戦略とイノベーション経営コンサルティング

DIOコミュニティがもたらす消費の変化 第2回:新コミュニティ台頭の背景とは?

3つの制約からの解放

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2023.8.25

経営イノベーション本部丹羽靖英

中井亮太朗

経営戦略とイノベーション
第1回で紹介した通り企業や個人が解決できなかった課題を、自分たちの手で解決する新世代のコミュニティが姿を現した。当社は総称してDIO(Do It Ourselves)コミュニティと呼んでいる。

共通の課題意識をもつ人々が集まるコミュニティはこれまでも存在したが、第1回目のコラムで紹介した事例は参加者の身近な課題を対象としつつも、地域の枠を超えて多くの人が参加する点で、従来のコミュニティとは異なる特徴を有する。

第2回の本コラムではこの点に着目し、DIOコミュニティ台頭の背景にある、コミュニティ形成・運営上の制約からの解放について紹介する。

自分たちで課題を解決する“DIOコミュニティ”

同じ「課題意識」「目指す方向性(ビジョン)」を共有し解決を目指す——

第1回では、当社がDIOコミュニティと呼ぶ組織がどのように自らの課題を解決しているのかを紹介した。

日本の空き家問題に着目して立ち上げられたAkiyaDAOは、ビジョンに共感した人々が共に空き家を購入・改修し、建築家やクリエイターが集まる活動拠点の構築を目指している。

IBD(炎症性腸疾患)患者が集うGコミュニティでは、実際にお腹や食事に悩みを持つ患者たちが自らプロテインの開発に携わり、彼ら自身が必要とする商品を作り上げた。

これらのコミュニティの特徴を整理すると、DIOコミュニティとは「抱える課題・ニーズと解決の方向性を深いレベルで共有した人々が集まり、彼ら自身が中心となって課題・ニーズを解決するコミュニティ」と定義できる。

ここでのポイントは、課題・ニーズをコミュニティで解決するためには、同じ課題意識をもっているだけでは不十分であるという点だ。たとえ同じ課題に悩んでいる人同士であっても、課題解決の方向性が一致していなければ、アクションを共にすることは難しい。DIOコミュニティとして成立するためには、「課題意識」「目指す方向性(ビジョン)」を共有することが重要なのだ。

ハイカーたちが自ら求めるバックパックを製作——

登山用品の国産ガレージブランドである「山と道」もDIOコミュニティの1つであると言える。「山と道」は、世界中の山を旅した夫婦が本当に必要なハイキング道具を作ることを目指し立ち上げたブランドだ。自らのハイカーとしての経験をもとに製作したウルトラライト(超軽量)のバックパックは、同じ悩みを持つ他のハイカーのニーズに刺さり、既存アウトドアブランドも追随して同種の商品を販売するまでになっている。今では全国から多くの仲間が集まり、製品開発だけでなく、ハイキングカルチャーを楽しむコミュニティの運営まで手掛けている。

この事例のポイントは、ハイカーである彼ら彼女ら自身の「既存グッズの重量という課題意識」および「自らグッズを作り課題解決したいというビジョン」が共有され、仲間を集めることができた点であろう。自ら感じた課題意識と、そのニーズを解決するグッズを作りたいというビジョンが他のハイカーに刺さったからこそ、現在多くの仲間と共に製品作りができていると考えられる。
DAO(分散型自律組織)とDIOコミュニティとの関係性
近年注目を集める組織形態として、DAO(Decentralized Autonomous Organization; 分散型自律組織)がある。
DAOは「特定の所有者や管理者が存在しない」という組織の管理・意思決定構造に着目した分類だが、われわれが提唱するDIOコミュニティは集まる人々の「課題意識」「ビジョンの共有」に着目した分類だ。
このため、「DAOでもDIOコミュニティでもあるコミュニティ」も存在すれば、「DAOではないがDIOコミュニティではある(あるいはその反対)」コミュニティも存在する。

3つの制約からの解放

先ほど挙げたDIOコミュニティの定義には、地域の問題解決に取り組む住民コミュニティやNPOなどもあてはまる。しかし前者の大半は地域限定の小規模なものである。後者は地域に限定されない大規模なものもあるが、その活動の目的は「社会全体や多くの人の利益」が基本であり、また組織の運営負担も大きく、だれもが気軽に取り組めるものではなかった。

これに対し、ここまでに紹介した事例はそれらとは異なる。まず、地域に限定されていない。またコミュニティのテーマや組織運営という点でもハードルが下げられている。「山と道」が解決しようとした課題はハイキングでのニーズという身近なテーマであり、組織運営の点ではAkiyaDAOは創設者2人で千人規模のコミュニティを運営している。

当社は、従来型の住民コミュニティやNPOには3つの制約があり、近年この制約から解放されつつあることが、DIOコミュニティの台頭につながっていると考えている。

まず1点目に、「同志不在という制約からの解放」だ。

「課題意識」「目指す方向性(ビジョン)」を深いレベルで共有できる同志が周辺にいることはまれであり、これまでは日本あるいは世界のどこかにいる同志を探し出すことが難しかった。特に、社会的な大義名分が薄い、少数の人々のニーズに基づく課題意識ならばなおさらだ。しかし、インターネットやSNSの発達により、「課題意識」と「目指す方向性(ビジョン)」を共有する、世界中に散らばっている同志と出会うことが容易になった(図1)。

第1回で紹介したGコミュニティによるお腹にやさしいプロテインの開発であれば、IBD(炎症性腸疾患)の患者は全国に一定数いるものの、いざ自分の身の回りで同じ悩みを持つ人を探すとなると簡単なことではない。ましてや、自らのための商品開発を行う意志をもつ人となるとその障壁は非常に大きい。しかし、Gコミュニティを通じて患者同士が繋がり、同じ悩みを抱え、一緒に解決したいと思う同志を見つけることで、一人ではできなかった商品開発に向けた取り組みを実現することができる。
図1 「同志不在という制約からの解放」のイメージ
「同志不在という制約からの解放」のイメージ
出所:三菱総合研究所
2点目は、「運営リソース不足という制約からの解放」である。

これまでは、課題を解決するためのスキルを有する人がコミュニティに揃うことはまれだった。しかし、1点目同様、インターネットやSNSの発達により、世界中の人々が相互にコミュニケーションできるようになったことで、同じ課題意識をもち、なおかつ課題解決に必要なスキルを有する同志を見つけることができるようになった。

さらに、近年ではクラウドソーシングによる外部人材のスポット調達、個人・小グループでの試作品の加工委託やクラウドファンディングでの資金集めなどができるようになったこともポイントだ。これまでは資本力のある企業しか取り組めなかった商品やサービスの生産に、コミュニティレベルで取り組めるようになった(図2)。

たとえば、AkiyaDAOでは、ビジョンに共感してコミュニティに参加した人々が、デザイン、建築、デジタルでのコミュニティ運営など、それぞれの知見を生かしてコミュニティに貢献している。

「山と道」でも、活動に共感したハイカーが、アパレルや映像・WEB制作など、各自の得意分野のスキルを活かし、活動を行っている。
図2 「運営リソース不足という制約からの解放」のイメージ
「運営リソース不足という制約からの解放」のイメージ
出所:三菱総合研究所
そして3点目が、「運営負担という制約からの解放」となる。

コミュニティは、大規模になればなるほどメンバー組成や合意形成の難易度が高まり、運営者の負担が非常に大きくなる。しかし、多人数でのコミュニケーションをサポートするツールや、コミュニティへの貢献度合いに応じてブロックチェーン技術を用いて意思決定権限(ガバナンストークン)を付与する仕組みの登場により、多くの人々が参加するコミュニティを運営するハードルが下がりつつある(図3)。
図3 「運営負担という制約からの解放」のイメージ
「運営負担という制約からの解放」のイメージ
出所:三菱総合研究所
これら3つの制約からの解放が、現在のDIOコミュニティの台頭を支えており、近年AkiyaDAOやGコミュニティ、山と道といった事例が登場しつつある要因ともいえる。

第3回となる次回は、DIOコミュニティが人々の生活にどのような変化をもたらすか、考察していく。

著者紹介

  • 丹羽 靖英

    ヘルスケア分野を中心に、企業や消費者をはじめとした社会動向の調査・分析に基づき、新規事業・サービスの検討や実装支援を担当しています。戦略や施策を絵に描いた餅とさせないため、ファクトやデータを起点にあるべき姿とそれに向けた道筋を意識した提案をしてまいります。

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