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経営戦略とイノベーション経営コンサルティング

DIOコミュニティがもたらす消費の変化 第3回:人々の生活はどう変化する?

人生をより豊かにするポテンシャル

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2023.8.25

企業DX本部藤田 慎

経営イノベーション本部山口 涼

経営戦略とイノベーション
ここまで“自分たちの課題を自分たちで解決するコミュニティ”であるDIOコミュニティについて、事例をもとに、その定義や近年台頭しつつある背景を紹介してきた。

では、このDIOコミュニティはわれわれの生活にどのような変化をもたらすだろうか、またわれわれの生活を豊かにするものだろうか。DIOコミュニティに参加する2人のストーリーを例に、見ていきたい。

ストーリー(1):子育て環境の悩みを解決する

ストーリー(1) Aさん
出所:三菱総合研究所
コミュニケーションが好きなAさん(女性)は、食品メーカーに営業職で入社し、出張で全国を飛び回る生活をしていた。長女の出産後も営業職に就いていたが、次女の出産後に復職する際、本社の経理部門に異動し、新たに整備されたリモートワーク制度を活用しながら、仕事と家庭を両立させてきた。

しかし2年前に長女が小学校に進学すると、保育園とは異なり自身の退社時間よりも早く帰宅する、いわゆる「小1の壁」に直面した。特に問題だったのは、夏休みなどの長期休暇だ。日中は学童保育施設に通わせていたが、小学校と違って給食がなく、お弁当を持たせる必要がある。

朝は朝食の用意と身支度で精いっぱいで、弁当を準備する余裕はない。夫は職業柄リモートワークが難しく、残業も多いため平日の家事を手伝うのは難しいのが現状だ。学童保育施設で給食を作ってほしいとは言わないにせよ、「せめて業者が子ども用の弁当を届けてくれるサービスがあったらありがたいのにな……」と思っていた。

そんな彼女に転機が訪れたのはその年の秋だった。Aさんは「学童保育施設への弁当宅配サービスの導入・普及」に関するDIOコミュニティを見つけ、「まさに!」と思い子どもの就寝後や週末の空き時間を活用してコミュニティの活動に参加することにした。

AさんがこのDIOコミュニティに参加した当時は、全国の学童保育施設に弁当宅配サービスを導入するための仕組みについての議論が行われていた。Aさんは経理業務の経験を活かして、業者・学童保育施設・利用者の間でのお金の流れについて、知恵を出した。

Aさんは、自分が住む市の市役所との折衝も行った。営業で培った交渉スキルと、自身が抱える育児に関する課題解決に向けた熱のこもったプレゼンテーションは、学童保育施設を管轄する市役所の担当者の説得に大きく貢献した。

彼女はこの経験を基に、育児環境向上というテーマでDIOコミュニティのメンバーと一緒に新しいサービスを考え始めた。いまは学童保育施設の中でタブレットを使って子どもたちが楽しく学べるアプリを開発している。高い月謝を払って習い事をさせるよりも、好奇心や自発性を育てる環境を、アプリを通して実現出来たら何よりだ。

こうした活動と時を同じくして、彼女の会社では勤務制度の見直しが進み、社員の副業・兼業を応援する制度が整っていった。彼女はこの制度を利用し、週3日はこれまで通り食品メーカーで、好きな営業の仕事を行い、残りの2日はDIOコミュニティの活動をするという生活をしている。

週2日をDIOコミュニティの活動にあてられるようになったので、時には子どもと一緒に学童保育施設へ行き、実際に子どもたちがアプリで遊ぶ様子も見ながら、サービスの改善を重ねている。

彼女は自らの希望を叶え、心身ともに充実した生活を送っている。

ストーリー(2):自分にあった車中泊グッズを

ストーリー(2) Bさん
出所:三菱総合研究所
Bさん(男性)は機械部品メーカーで金属部品の製品開発を担当している。顧客である自動車会社や製造装置メーカーのニーズをもとに、部品の設計から試作までを手掛ける仕事だ。

そんなBさんの趣味はソロキャンプ。天気に関わらず愛車のミニバンを走らせキャンプ場に向かい、自然を感じながらゆっくり料理をするのが、週末の過ごし方だ。

ソロキャンプを趣味にしてから3年。最近は、キャンプギアの展示会に足を運んで道具を買いそろえたり、車中泊ができるようにミニバンを少し改造したりしている。そのこだわりぶりは同僚や友人も知るところだ。

そんな彼が、小さい車でも車中泊キャンプがもっと快適になればいいのになぁと思っていたところ、「車中泊を快適に過ごすための商品開発」DIOコミュニティを見つけた。

市販のマットレスは、大きすぎて持ち運びに不便だったり、小さすぎて寝心地が悪かったりと、「ちょうどよい」ものがなかったりする。

彼が参加したDIOコミュニティでは、同じ悩みを持つ人々がワイワイ会話をしていた。「こういうものがあったらどうだろう?」「ああいう機能があったらおもしろくない?」「こういうデザインがあったらいいのにね?」……会話を見ているだけでもワクワクしてきた。

そんなDIOコミュニティでBさんは、車中泊にぴったりのキッチングッズのアイデアとして、自分の強みである金属加工を使ったグッズのデザインを考えて提案した。自分たちが欲しいと心の底で思っていたコトを具体化する作業は、顧客からの要求仕様を満たす製品開発を行ってきたBさんにとって、新たなやりがいの発見だった。

DIOコミュニティは会社と違い、試作品を作るための機器がないので、メーカーとの交渉が上手なCさんと協力し、メーカーに試作を依頼した。完成した試作品は、コミュニティメンバーが実際に使い、改善点を見つけながらブラッシュアップしていった。会社の商品開発プロセスよりもずっと柔軟にスピード感をもって、良いグッズを作ることが出来た。

DIOコミュニティでの経験を積む中で、Bさんは、いろいろな企業の商品開発プロジェクトに参画するコンサルタントという仕事に転職した。転職を機に前職より仕事量を減らし、代わりに車中泊DIOコミュニティの商品開発に費やす時間を増やすことにした。

これまでは、企業で働いて得られた給料でキャンプグッズを購入する生活だったが、自分で作ることで、より自分の欲しいものを手に入れることができるようになった。時間の使い方も、企業で働いていた時間の一部を、自分でグッズを作って使う時間に充てるようになり、自分の趣味であるキャンプに関わる時間を増やすことができた。
いかがだっただろうか。ここに挙げた事例は、われわれがDIOコミュニティと呼ぶ組織に関わる人々に対して行ったインタビューを通じて作成した人物像だ。

第2回までに取り上げた事例のように、多くの人が関わり、外部の力も使いながら運営されるコミュニティでは、1人ひとりが関わらなければならない時間は少なくなる。そのため、より気軽に、「自分が本当に欲しいものは、自分たちで作り出す」活動に加わることが可能だ。その結果としてDIOコミュニティが広がれば、今回取り上げた2人のような生活の変化は決して珍しいものではなくなるかもしれない。

DIOコミュニティが広まった世界で、人々に起こる生活の変化のポイントは2つあると考えられる。

第1に、消費行動の変化だ。本当に欲しいモノ・こだわりたい領域のモノを自分たちで生み出すプロセスを体感すれば、これまでのように無意識のうちに既存の製品・サービスで間に合わせるのではなく、同じ課題・ニーズを持つ人たちと一緒に本当に欲しいモノを作る、という新たな選択肢が生まれるだろう。

第2は、労働に対する考え方の変化だ。これまでは「仕事と余暇」が分離していたが、DIOコミュニティは自分の欲しいモノを作るという「仕事(=プロセス)」を「余暇」的に楽しむという側面がある。仕事でも余暇でもないこの時間は、従来の仕事や余暇の時間の一部にとって代わるものだろう。

このように、DIOコミュニティの台頭によりわれわれの消費行動や時間の使い方は変わる可能性がある。そしてこれらは、われわれの人生をより豊かなものにするポテンシャルを秘めているのだ。

著者紹介

  • 藤田 慎

    DX構想・戦略策定から、データドリブンを指向した経営管理・マーケティング領域の業務改革を専門領域にしています。 事業環境変化の激しい時代に適応できる企業・組織変革を指向しながら、経営から現場まで納得感のあるDXを構想し、実現に向かった伴走に取り組んでいます。

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