マンスリーレビュー

2022年12月号

MRIマンスリーレビュー2022年12月号

「食料安全保障」の深層

常務研究理事 古屋 孝明
国家間の争いは、市民や社会を疲弊させる。ロシアのウクライナ侵攻以降、食料・エネルギー・資源などへの関心が高まり、経済安全保障として、社会・経済を根底から支える重要物資の安定供給や重要技術の開発が、国民の安全・安心を守る国策となる時代になった。

人類は、バクテリア・菌類・植物・動物との共生と共進化の生態系の中で生きてきた。そして人口爆発に見合う食料を供給するべく技術革新を駆使してきたが、このままでは環境負荷が高く、気候変動や生態系の破壊を促進し、本格的に世界で食料争奪戦が発生したとき、真の食料危機が起こる懸念がある。

日本の食料安全保障を考えるとき、自給率向上が強調されるが、現状のトレンドでは、基盤となる国内食料生産力は今後30年で半減するリスクがある。

考慮すべきは持続可能な社会・経済の根本となる食料供給の30年、50年先の姿だ。問われるのは日本の食料供給力の維持・向上とともに、農業の地球環境問題を解決する革新技術の創造である。そして経済安全保障の視点では、魅力ある食文化を輸出できる「稼げる自律性」、農業の技術革新による「環境と調和する不可欠性」の実現となる。今こそ日本には、食と農の政策のグランドデザインと、そこに至る工程表が必要だ。
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