マンスリーレビュー

2022年12月号特集2エネルギー・サステナビリティ・食農

2050年の国内農業生産を半減させないために

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2022.12.1

政策・経済センター平野 勝也

政策・経済センター武川 翼

POINT

  • 2050年の農業経営体数は84%減、生産額は52%減の見込み。
  • 法人化・大規模化によるさらなる生産性向上が不可欠。
  • 大規模法人に加え、生産性高い中規模農家を創る支援も必要。

国内食料生産は遠からず維持困難に

日本の農業経営体と農業就業者は1950年代以降減少の一途をたどってきた。一方で農業生産額は1980~90年代前半のピーク時には及ばないものの、2000年代以降は官邸主導の「農業の成長産業化」により一定の持ち直しを見せ、2010年代後半は9兆円前後で横ばいとなった。

果たして現状の法人化・規模拡大の農業政策によって、日本のフードセキュリティは担保できるだろうか。当社は農林業センサスの品目別経営体数などのデータをもとに、2050年時点の経営体数、経営耕地面積、農業生産額が現状延長ベースで2020年比でどの程度減るかを推計した。

それによると、2050年の経営体数は2020年比84%減の18万に、経営耕地面積は50%減の163万ヘクタール(ha)、生産額は52%減の4.3兆円になる見込みである※1(図)。

いずれも個人農家の急激な減少によるもので、法人経営体の増加や規模拡大を加味しても、生産額の激減は免れない。食料自給率向上の必要性が叫ばれているが、自給率向上どころか、生産力が半減してしまう見通しである。
[図] 現状延長ベースでの農業経営体数と農業生産額の見通し
[図] 現状延長ベースでの農業経営体数と農業生産額の見通し
出所:三菱総合研究所

いっそうの法人増・大規模化による生産性向上を

当社はフードセキュリティを担保するためには、少なくとも現状の国民1人あたりの農業生産力を維持すべきと考えている。

今後の人口減少予想を前提にすると、2020年に8.9兆円だった農業生産額は、2050年時点で8兆円を確保する必要がある。この目標を達成するためには、現状延長ベースでは4万になる見込みの法人経営体の数を7.2万、経営体あたりの産出額を2020年比1.5倍の約9,500万円にしなければならない。法人全体での経営耕地面積合計は3.8倍の約260万haとすることが求められる。

新規参入や法人化を促すためにも、経営体あたりの生産性を高め、「儲かる産業」としての農業を確立し、大規模経営を志向するプレーヤーを増やすことが重要である。生産性を高める手法としてはスマート農業や流通効率化、省人化などが挙げられるが、最も重要なのは農地の集積だ。経営体数が減りながらも直近15年の農業産出額が維持できたのは、テクノロジーの貢献よりも、規模拡大が進んだ影響が大きい。

一方で、近年は農地集積のペースが鈍化している。大規模法人は営農条件の良い農地の集積を一巡させており、さらなる集積の余地は限られてきている。制度見直しによって、農地集積を促進するとともに、条件の悪い土地であっても生産性向上を実現する新たな技術やノウハウの開発・導入が求められる。

中規模農家の経営者育成と経営力向上

そもそも中山間地域が総土地面積の約7割を占める日本では、特に土地利用型の農業において100haを超えるような大規模法人だけで全国をカバーするには限界がある。そこまで大規模ではないものの生産性の高い中規模農家を維持・育成する対策も重要である。

水稲なら20〜30ha、野菜・果樹なら3ha程度を耕作し、年間3,000万円前後を売り上げる農家が、農業産地に相当数営農しているイメージだ。

こうした状況を実現するためには、高齢化した各地の生産部会や集落営農組織の法人化、新世代への事業承継が必要になる。経営体間で生産ノウハウや情報システム、販路を共有するフランチャイズ形態を実現することで中規模農家が連携すれば、大規模法人に劣らない高度な経営も必要となる。すなわち中規模であっても、事業改善や効率化、多角化に挑戦する「事業者」としての意識をもつ経営体の育成が不可欠だ。

行政には、経営者や従業員に対する教育投資を強化することを期待したい。今後いっそうの過疎化、高齢化が予想される地域が多い中、「儲かる地域産業」や「若者の魅力的な就労先」として、地方における農業の位置付けを再定義していくことができるはずだ。

総力戦で「農業者の儲ける力」を育成する

以上のとおり、フードセキュリティのためには、法人化・大規模化促進に加え、生産性の高い中規模農家群の創出が必要だ。ポイントは「儲かる農業」を実現可能とする環境づくりにあわせて、「農業者の儲ける力」を育成する点にある。

時代をリードする農業法人のノウハウと、これまで地域の農業を支えてきたJAグループ・地方行政の蓄積やネットワークを結集すべきだ。政府には両者が協働できる場づくりを進めるとともに、農林水産省単独ではなく、経済産業省や総務省、環境省などと連携した政策立案が求められる。

※1:農業経営体(家族経営)はコーホート分析から算出。農業経営体(法人経営)は営農類型別に対数近似曲線を仮定して算出。