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2022年12月号トピックス1経営コンサルティングサステナビリティ

価値創造ストーリーが拓く攻めのサステナビリティ経営

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2022.12.1

経営イノベーション本部佐藤 智彦

経営コンサルティング

POINT

  • 企業の社会課題解決は差別化や事業機会創造のフックに。
  • 価値創造ストーリーによる共感が企業のリスクテイクを後押し。
  • 意志、目標、主体の明確化が価値創造ストーリーのポイント。

社会課題対応が経営を差別化

SDGsに代表される社会課題は広く認知され、多くの企業が「自社事業」と「社会課題解決」を結び付け貢献をアピールしている。

しかしながら、多くの企業にとって社会課題解決は、第三者が描いた未来社会を前提とした対策が主であり、受動的なスタンスとなっている。

一方で先駆的企業は、自ら新たな未来社会を描き、実現に向けて能動的に取り組み、自社の事業機会を創造し、競合との差別化につなげている。

今後このような社会課題解決をフックとした能動的な取り組みは、多くの企業に波及していくと考えられる。

活用が広がる価値創造ストーリー

事業を通じて能動的に社会課題を解決するには、失敗のリスクを受容して先行投資しなければならない。しかし多くの社会課題には、事業化自体の難しさや収益化の難しさがあり、企業にとって参入ハードルが高い。

経営層には、社会課題解決に取り組む意義を株主、顧客、取引先、社員など社内外のステークホルダーに分かりやすく説明し、共感と協力を得ることが求められる。特に社内では経営層の意志を全ての事業部、従業員に浸透させることが重要だ。

近年、社会課題解決に向けて「何を目指しどのように実現するのか」「活かせる自社の強みや補完すべき経営資源は何か」「社会や自社にもたらす価値とは」——といった事柄を「価値創造ストーリー」として描き、ステークホルダーとの対話に活用する企業が増えてきている。

例えば味の素グループは、「アミノ酸のはたらきで、世界の健康寿命を延ばすことに貢献します」を掲げ、2030年に食と健康の課題解決企業に生まれ変わる道のりを、価値創造ストーリーとして開示している。キリンホールディングスは「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※1先進企業となる」として、2027年までの道のりと取り組み事例の進捗を開示している。

3つのポイントでステークホルダーに訴求

ステークホルダーが納得する価値創造ストーリーは、①意志の明確化:「社会はこうなる」という受動的スタンスではなく「社会をこうする」という能動的スタンスに立って描かれていること、②目標の明確化:非財務活動※2も含めた「アウトプットKPI(重要業績評価指標)」とその結果導かれる「アウトカムKPI」まで設定されていること、③主体の明確化:パートナーを含む実施主体まで描かれていることの3つのポイントを押さえている。

これにより自社の本気度、ゴールとアクションの妥当性、結果として得られる競合との差別化や企業価値向上について社内外のステークホルダーの理解を得て協力を引き出すことができる。

価値創造ストーリーの策定とリスクをとった実践によって、多くの日本企業が攻めの経営に転じて、サステナビリティの獲得につながることを期待したい。

※1:Creating Shared Value:共有価値の創造。マイケル・E・ポーターが提唱した概念。自社の強みを用いて企業成長と社会的課題解決を実現し、企業の存在価値をアピールするという差別化戦略。

※2:財務諸表には出てこない企業の活動。短期的には企業価値よりも社会価値につながる特性があるが、中長期的には新たな企業価値(財務価値)につながる可能性がある。