コラム

環境・エネルギートピックスサステナビリティ経営コンサルティング

サステナビリティ経営で不確実な時代を生き抜く

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2020.4.28

環境・エネルギー事業本部笹野百花

環境・エネルギートピックス
サステナビリティ経営への関心が高まっている。サステナビリティ経営とは、「環境・社会・経済の持続可能性への配慮により、事業のサステナビリティ(持続可能性)向上を図る経営」である。従来、企業はCSR※1の名のもとに社会貢献活動を実施してきたが、経営や事業とは切り離されたプラスアルファの活動と捉えられる場合も多かった。しかし世界が2030年のSDGs※2達成を目指す今、企業が長期にわたり生き残るにはサステナビリティの観点を経営に取り込む必要があるとの認識が浸透し始めている。

サステナビリティ経営実現へのステップ

そうは言っても、SDGs、ESG※3など、多くの用語が飛び交う中で、何から始めればよいのかと悩む担当者も多い。そこで、サステナビリティ経営実現へのステップを以下に説明する(図1)。
図1 サステナビリティ経営実現へのステップ
図1 サステナビリティ経営実現へのステップ
出所:三菱総合研究所

Step1 マテリアリティ(重要課題)特定:自社と社会の関係を把握する

最初に取り組むべきことは、マテリアリティ(重要課題)の特定である。環境・社会・経済のサステナビリティに関わる多種多様な課題から、社会やステークホルダーへのインパクトが大きく、かつ事業のサステナビリティに関わる課題を絞り込む。例えば、気候変動やダイバーシティ推進は多くの企業で挙げられている。また、食品業界であれば健康が、インフラ業界では地域活性化が挙げられるなど、マテリアリティは業種に依存するところも大きい。
マテリアリティ特定は、その後に続くサステナビリティ経営の主題を決める、最初にして最重要のステップである。取り組む際のポイントは2つある。1つは、候補となる課題を網羅的に用意することである。その際、SDGsやISO26000※4、GRIスタンダード2016※5、SASB※6などのサステナビリティに関する国際目標・国際基準を参照すると良い。もう1つは、課題を適切に評価することである。各課題を「社会(ステークホルダー)における重要度」と「自社における重要度」の2軸で評価し、マテリアリティマップを作成することが一般的だ。その際、「社会(ステークホルダー)における重要度」については、社会へのインパクトの大小を推測しつつ、投資家などのステークホルダーの意見をヒアリングや文献をもとに取り入れ、有識者に妥当性の確認を依頼するとよい。「自社における重要度」に関しては、社内でワークショップを開催し、年齢・性別・部署を超えて議論、評価することが望ましい。社員の巻き込みは、各課題の評価やマテリアリティの妥当性向上だけでなく、サステナビリティの社内浸透にも効果的だ。

Step2 長期ビジョンの策定:将来のありたい姿を描出する

次に行うべきは、長期ビジョンの策定である。目標年は、SDGsの目標年が2030年であること、気候変動に関して「2050年にカーボンニュートラル※7を目指す」動きが拡大していることなどを踏まえ、2030~2050年に設定することが望ましい。長期ビジョン策定にあたっては、マテリアリティを踏まえ、目標年における社会の変化や自社が受けるインパクトに関するシナリオを設定する。そのシナリオに沿って対応策を検討し、自社のありたい姿を描く※8。この検討でも、多様な社員の巻き込みが重要だ。社外に対して説得力があり、社内において納得感のあるビジョンの策定につながるだろう。

Step3 目標設定と実践:バックキャスティング思考で設定した目標に向け、全社員で事業を実践する

長期ビジョンが策定されたら、それを実現するための具体的な目標設定と実践に移る。現状の延長で達成できる目標を置くのではなく、将来ありたい姿に向けてバックキャスティング思考で目標を設定することが肝心だ。また、目標と併せてアクションプランや指標を設定できれば、長期ビジョンに向けた道筋が具体化され、円滑に実践を始めることができる。実践には、全社員の理解が不可欠だ。サステナビリティに関する研修を行うことも効果的だろう。

サステナビリティ経営のメリット

すでにご認識のことと想像するが、サステナビリティ経営実現に向けて上述のステップを踏むには、コストや人手が必要だ。それでもサステナビリティ経営は、取り組むに値するメリットを企業にもたらすと考えられる(図2)。1つは、経営・事業自体のサステナビリティ向上である。将来を見据えて環境・社会・経済のサステナビリティに配慮することで、企業は自社のリスクや機会を把握し、長期にわたり安定的に発展できる。もう1つは、ステークホルダーからの評価向上である。まずESG投資家からの投資拡大につながる。次に、企業イメージ向上により、消費者・取引先などの顧客の獲得につながる。さらに、従業員も、自社・自身の社会貢献を実感し、仕事に対する誇りや自信をもつことができる。志ある人材の獲得にも結び付くだろう。
図2 サステナビリティ経営のメリット
図2 サステナビリティ経営のメリット
出所:三菱総合研究所

サステナビリティ経営による評価向上の事例

参考として、サステナビリティ経営に取り組む丸井グループの事例を紹介する。同グループは、社員が主体となって「ビジョン2050」を策定し、実現したい世界に向けたビジネスを着実に実践している※9。例えば、高齢者、LGBT、外国人や障がいのある方など、すべての人が「私らしさ」を追求できる世界の実現に向けて、商業施設のユニバーサルデザインや、お客さま参画型の商品開発などを進めている。環境・社会・経済のサステナビリティの視点を、ビジネスの機会創出に活用しているのだ。同グループは、サステナビリティに資する取り組みについて各所で高い評価を獲得している。例えば、環境省が開催した第1回「ESGファイナンス・アワード」において環境サステナブル企業部門の銅賞を獲得した。また、同グループの統合報告書は、GPIF※10が公表する「優れた統合報告書」に4年連続で選定されている。

終わりに

今後、サステナビリティ経営の重要性がますます高まると考えられる。サステナビリティ経営は、移り変わる社会の中で企業が存続するための本質的な対応策だからだ。特に2020年、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として、サプライチェーンや雇用のあり方など、社会構造に大きな変化が生じる可能性がある。そのような状況下では、社会動向を的確に捉え、自社が向かうべき方向性を長期の視点で考えられる企業とそうでない企業の差が、如実に現れるだろう。
三菱総合研究所では、オリジナルの社会課題リストなども活用しながら、環境・エネルギー事業本部と経営コンサルティング本部が連携し、マテリアリティ特定や長期ビジョン策定などのサステナビリティ経営のご支援を多数実施している。今後も、社会課題に関する見識を積み、各社の現状に寄り添うことで、環境・社会・経済と企業のサステナビリティ向上に貢献していきたいと考えている。

※ 1:CSR(Corporate Social Responsibility):企業の社会的責任。

※ 2:SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発目標。2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された。

※ 3:ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字。財務情報に加え、ESGに関連する非財務情報を評価するESG投資が拡大し、企業はESGに関する情報開示を求められている。

※ 4:ISO26000:国際標準化機構が策定した、企業の社会的責任に関する国際規格。

※ 5:GRIスタンダード2016:GRI(Global Reporting Initiative)が策定した、企業のサステナビリティに関する報告書のガイドライン。

※ 6:SASB(Sustainability Accounting Standards Board):米国サステナビリティ会計基準審議会。ESGに関する開示基準を業種ごとに設定している。

※ 7:カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出量が、削減・吸収量により相殺された状態を指す概念。

※ 8:長期ビジョン策定のステップの詳細については、経営戦略とイノベーションに関するコラム「長期ビジョンで企業変革を実現する(全5回)」を参照されたい。なお、経営の安定性向上を目的に策定する長期ビジョンと、サステナビリティ対応を目的に策定する長期ビジョンは、見かけは異なるが本質的には同じである。サステナビリティ対応も、持続していく社会の中で自社が生き残り続けるための戦略だからだ。

※ 9:出所:丸井グループ「VISION BOOK 2050」

※10:GPIF:年金積立金管理運用独立行政法人。日本の国民の年金を運用する、世界最大の機関投資家である。

三菱総合研究所では、ESGやSDGsを起点とした環境/サステナビリティ経営戦略立案支援、リスクコンサルティング、新規ビジネスコンサルティングなどを行っています。